情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前回(第20回)は成長企業では、「ワーストシナリオ回避」よりも「ベストシナリオ追求」の姿勢が必要だと述べました。この姿勢について、さらに情報化・IT(情報技術)活用の観点から説明します。

 そもそもコンピュータという機械は、人間の手による作業とは異なる特徴があります。企業における情報システム化案件の目的を考えると、業務の効率化が最大の狙いであることは少なくありません。なぜ効率化できるかといえば、「機械は間違えない、速い、文句を言わない」という前提があるからです。

 裏を返せば、「人間は間違えるし、遅いし、文句を言う」。つまり情報システム化案件の多くは、機械の良さを最大限に生かすことが目的であり、それは同時に人間による手作業の問題点を解決し、回避することを狙っています。

 実は、この発想自体が「ワーストシナリオ回避」型の発想なのです。人間の手作業で考えられる悪いこと、例えば人件費の増加、作業の遅れ、間違いの頻発などを回避するために機械を使おうという考えが根底にあるのです。人間の手作業による問題を解決し、人間の弱いところをカバーするための情報化です。

人間の力を補強するのがITの役目

 ところが「ベストシナリオ追求」の姿勢を持つ成長企業は、情報化に関してもワースト回避よりもベスト追求で発想します。人間の力をより強化するためにITを活用しようと考えます。

 前回はコンビニエンスストアの最大手であるセブン-イレブン・ジャパンについて言及しました。コンビニは、店舗が狭い、小口多頻度配送が必要になる、など多くの悪い要因を抱えています。逆に考えて、情報化によって狭い店舗に常に売れる商品だけを置くことができたら、どんなに素晴らしいでしょうか。

 ヒット商品のライフサイクルは時代とともに短くなっています。情報システムを活用しない限り売れ筋の発見は容易ではありません。情報システムを活用すれば、「死に筋」と呼ばれる売れなくなってきた商品を発見し、これを即座に新商品と入れ替えることも可能になります。

 コンビニが広まり始めた1970年代ごろの中小の小売店では、売れない商品が売り場でほこりをかぶり、ますます売れなくなる状況がありました。店主には新商品を吟味して仕入れる余裕が無く、卸から不良在庫を押し付けられていた面もあったでしょう。

 一方で、セブン-イレブンでは常に新商品が並んでいます。うまくいけば、中小の小売店が雪崩を打ってセブン-イレブンの看板を欲しがる状況がありました。そうすれば店舗の立地をセブン-イレブン本部が選べます。配送ルートを効率化できるように同一地域に複数店舗を同時出店できる可能性も生まれます。