情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。(毎週月曜日更新)

 前回(第23回)に続いて、成長が行き詰まってしまい閉塞(へいそく)感が漂っている「停滞企業」の“ユーザー企業”おけるIT(情報技術)活用のあり方を説明します。前回は「新事実」「新技術」「新ステークホルダー」の3つのキーワードを示しました。

 第1のキーワードは「新事実」です。

 停滞企業であるあなたの企業で、事業の実績を日々確認する時の切り口は何でしょうか。商品別、顧客別、地域別、担当組織別、担当者別、そしてこれらの組み合わせなど、様々なものがあると思います。これらの切り口で実績を確認し、課題を抽出し、日々の改善活動につなげていることでしょう。

実績の見方から変えなければ停滞は続く

 しかし、このやり方自体が停滞を招いていることに早く気づくべきです。

 停滞を“安定”と見なして、成長性よりも収益性を優先するならば、現在得ているものを失わないようにしながら、小さな改善活動を継続することが重要です。しかし、さらなる成長を目指すならば、何らかの方法で現状を打破しなければなりません。

 停滞企業では「今見ている事実・データ・情報からヒントを得て改善策を発想し実行し続けていること」に限界があるわけです。だからこそ、まず「今見ていない情報」で価値あるものがないかどうかを考えるべきです。つまり「新事実」です。

 停滞組織では、体制・人員が固定化傾向にあるだけではなく、そこでの序列や価値観、文化なども固定的であることが多いでしょう。従来の価値観における高付加価値人材が出世して権限を握っているので、新しいアイデアはなかなか生まれてきません。あなたの会社や部門は、このような状況に陥っていないでしょうか。

新しいアイデアは容易につぶされる

 アイデアを生み出す人を「アイデアジェネレーター」と呼ぶならば、それを否定する「アイデアキラー」も存在します。アイデアキラーは、単なる軽い“思い付き”を抹殺してくれるという組織にとって有益な役割を担っています。しかし、経験と権限を兼ね備えたアイデアキラーがにらみを利かせているのであれば、この人には勝てないとみんなが感じて、アイデアが生まれなくなります。そうなると、事業や組織の停滞は構造的と呼ぶべき状況に陥ります。

 強いアイデアキラーがいるならば、その人よりも上位の権限を持った誰かが「アイデアプロモーター」(アイデア発案・実行を促進する人)になって、ジェネレーターを発掘・育成しなければなりません。

 ここまでの話は、ITから離れた現象に見えますが、実は、この要件を満足していなければ、ITをいくら活用しても、停滞から脱出できません。誰がどんなアイデアを出そうと、途中で抹殺するアイデアキラーがいて、そのアイデアキラーを頂点とした序列構造が確立しているならば、IT活用であろうが、IT以外のことであろうが、新しいことは何もできません。

 アイデアキラーが「定年退職」を迎えるまで待てば良いか、というとそう簡単でもありません。その間に組織に「アイデアを生まない方が良い価値観」が染みつきますから、停滞が固定化してしまいます。