全国に点在する複数の有力ケーブルテレビ(CATV)事業者が,地域WiMAXの事業化を推進しており,サービスも続々と始まっている(関連記事1)。こうしたCATV事業者の多くは,デジタルサイネージにも強い関心を抱いている。地域の情報化に積極的に取り組んできたCATV事業者は,地域WiMAXとデジタルサイネージという組み合わせをビジネス拡大の絶好のチャンスと捉えているようだ。

 地域の情報発信力強化につながるICTのツールは,どんどん豊富になり,利用できるようになってきた。地域WiMAXやデジタルサイネージ以外にも,「エリア限定ワンセグ」,「コミュニティ・チャンネル(データ放送を含む)」などがある(注:エリア限定ワンセグは,まだ実験という位置づけだが,制度化の動向に注目が集まっている)。その一方で,これらのツールを「誰がどう使いこなすのか」が,重要な課題に浮上してきた。CATV事業者や地方民放が最有力な担い手であることは間違いない。中でも先行しているのが,地域WiMAXという無線通信手段を手に入れたCATV業界の取り組みである。

各地で様々な挑戦がスタート

 2009年6月,日本ケーブルテレビ連盟はデジタルサイネージをテーマにした委員会を立ち上げた。デジタルサイネージは,新たな広告・宣伝メディアとして注目を集めており,日に日にその設置場所を増やしている。ケーブルテレビ(CATV)業界は,「無線通信の手段を持ったこと」,「地域に密着したコンテンツを持っていること」から,地域の情報化を推進する中核メディアという位置づけを一層強化するためにも,強い関心を業界として抱いているようだ。

 無線通信では,CATV事業者が次々に地域WiMAXの免許を受け,無線データ通信サービスを立ち上げている。デジタルサイネージ端末を設置する場合,いちいち有線の回線を用意するのではなく,地域WiMAXを使った無線通信でコンテンツを更新する方が,設置場所の制約を小さくできる。デジタルサイネージと無線通信という組み合わせは相性が良く,イオンが店舗のレジ裏に展開しているデジタルサイネージ「イオンチャンネル」(関連記事2)やJR東日本の駅ナカ・デジタルサイネージ「デジタルポスター」(関連記事3)はコンテンツ更新に無線通信を利用している。地域WiMAXに進出したCATV事業者は,自前のWiMAX回線が利用できるのが強みである。

 地域WiMAXサービスを展開するCATV事業者にとっては,地域WiMAXとデジタルサイネージを組み合わせることで,サービスの対象が広がり,ユーザー数が増えるという期待もある。愛知県半田市のCATV事業者であるCAC 取締役総務部長兼事業部長の金澤茂明氏は「人口は12万人程度だが,デジタルサイネージ端末もユーザーだと考えれば,潜在的な利用者はかなり増える」と説明する。同社はCATV事業者がデジタルサイネージ端末を設置して媒体を持つのではなく,例えば自動販売機のベンダーが自動販売機内にモニターを設置し,そのコンテンツ更新に地域WiMAXの無線データ通信サービスを使うといった想定をしている。

 デジタルサイネージを運営していく上で課題になるのがコンテンツである。ただ単に広告を流しているだけでは,誰も見てくれない恐れがある。しかしデジタルサイネージを運営する事業者は自らコンテンツを作成するところは少なく,多くは外部に制作を依頼したり,ニュースや天気情報などを購入したりする場合が多い。

 一方のCATV事業者はコミュニティ・チャンネルを運営しており,地域密着を強みにした番組制作のノウハウを持っている。番組コンテンツそのものを作れる,または広告スポンサーを付けるコンテンツを作れるといった強みがある。地元の行政と密接であるCATV事業者も多いことから,選挙告知や行政からのお知らせといったコンテンツも確保しやすい。

 例えば,山梨県甲府市でCATV事業を手がける日本ネットワークサービス(NNS)は,地域WiMAXを使った無線データ通信サービス「CCNet WiMAX」を,デジタルサイネージ端末へコンテンツを配信するインフラとして活用していくことを計画している。自社の制作能力を生かし,地元コンテンツやコマーシャル映像を,信号待ちをしている人向けにデジタルサイネージ端末で放映したり,地元の大きな商店街に設置したデジタルサイネージ端末で商店街の情報を発信したりすることを想定する。また,神奈川県藤沢市のオープンワイヤレスプラットフォーム合同会社(OpenWP)は,市の施設内に設置したデジタルサイネージ端末や,湘南台駅と慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパスを結んでいるバスの中に設置したデジタルサイネージ端末に対して,行政情報や地元のコミュニティ情報を配信する計画である(関連記事4)。