オープンワイヤレスプラットフォーム合同会社(OpenWP)は,2009年9月から神奈川県藤沢市において地域WiMAXサービスを開始した。同社は,地域ワイヤレスアクセス事業の提供のために2009年3月31日にインテックや,ジュピターテレコム(J:COM),ブロードバンドタワー,ワイドリサーチなどの出資を受けて神奈川県藤沢市に設立された。「オープン性を担保したネットワーク―Unwired Internet戦略― 」に基づき,新たな地域ワイヤレスアクセス市場を創出する事業運営を推進する。

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図1 慶應義塾大学の慶応義塾大学 環境情報学部教授の中村修氏

 当初事業は,藤沢市湘南台地区において学術機関や地方公共団体,商店街などとの相対契約を主体として推進する。第一号の利用者として,慶應義塾大学SFC研究所が決定している。

 特徴は,サイネージや電子チラシなど展開をにらむ一方で,個人への課金を想定していないことである。

 以下は,サービス開始に先立ち,最高技術顧問として同社に携わる慶應義塾大学の慶応義塾大学 環境情報学部教授の中村修氏(図1)に,事業の内容や今後の展開を聞いたものである。

図2 当初のサービスエリア
図2 当初のサービスエリア
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基地局の数とカバー・エリアは。

中村 慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスに1つ,イトーヨーカドー湘南台店の屋上に2つ基地局を設置している(図2)。2009年内には小田急電鉄の湘南台駅にもう1つ基地局を設置する予定で,この基地局が設置されると湘南台駅から,イトーヨーカドー湘南台店を経て,湘南藤沢キャンパスまで通っている大通りが地域WiMAXの提供エリアになる。

どういうユーザーや課金モデルを想定しているのか。

中村 個人ユーザーから月額料金を徴収するモデルは考えていない。想定しているユーザーは自治体と,企業,大学といった法人である。具体的には,神奈川県藤沢市が第一号のユーザーとなり,デジタルサイネージの実証実験のインフラとして2009年9月から利用する予定である。市の施設内に設置したデジタルサイネージ端末や,湘南台駅と湘南藤沢キャンパスを結んでいるバスの中に設置したデジタルサイネージ端末に対して,行政情報や地元のコミュニティ情報を配信する計画である。

藤沢市でのデジタルサイネージの利用例はどのようなものか。

中村 例えば情報を家庭に配信する仕組みが整えば,ゴミ収集車が近づいたという情報や,地域の花火大会といった催しの告知といったことができるだろう。買い物に行くのに一緒に車に乗せていく人を募る情報を表示できれば,老人が容易に買い物に行けるようになるといった安心安全な環境作りにも役立てられる。地震といった災害が発生した場合は,避難場所を告知するといった用途もある。

企業や大学の利用例はどのような想定なのか。

中村 例えば地元のスーパーには,エリア内にいる人に「おいしい天ぷらやコロッケがあがった」「先着20人でタイムセールを実施する」といった今を伝える情報を発信するインフラに使ってもらえないか打診している。その他には,大きいコストがかかる紙のチラシに換えて,デジタル・チラシを配布する手段としても利用できるかもしれない。大学では例えば近隣の農家と協力して,畑の温度や湿度を測るセンサーの情報を取得するために利用できないかを考えている。この研究のために地域WiMAXの通信モジュールを組み込んだセンサーを開発していく予定である。

今後に導入を予定している新技術はあるか。

中村 エリア内の端末に同報型で効率よく情報配信する機能であるMCBCS(Multicast Broadcast Service)に注目している。日本で利用しやすい仕様が認められるように,WiMAX Forumにおいて面白い用途を紹介していく。全国でWiMAXサービスを展開するUQコミュニケーションとも協力して,MCBCSの標準化を推進することも考えている。