昨年,テクノロジ関連のニュースに少しでも注意を向けていた人であれば,多くのベンダーが企業に対してIT部門の基幹業務をインターネット・ベースのサービス提供メカニズム(すなわちクラウド・コンピューティング)に移行するよう売り込んでいることを,ご存じだろう。米Microsoftも,ソフトウエア・プラス・サービス(S+S)という独自のクラウド・コンピューティングを推進している(関連記事:「ソフトウエア+サービス」を指向するMicrosoftの苦悩)。

 S+SがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と本質的に異なるのは,S+SではMicrosoft Officeのような専用のクライアント側ソフトウエアとオンライン・アプリケーションとを柔軟に連携させるという点だ。この組み合わせによって,Webサービスの利便性とクライアント・アプリケーションのもつ豊富な機能の両方について,いいとこどりをしているのである。

システム部員のいない中小企業でもExchangeが導入できる

 たとえば,Microsoftがすでにサービスを開始している「Business Productivity Online Suite(BPOS)」は,中小企業に大きな影響を与える可能性を秘めたサービス・スイートの1つだ。BPOSでは,Microsoft Exchange OnlineとMicrosoft SharePoint Online,Microsoft Office Live MeetingといったOfficeのサーバー機能をSaaS(Software as a Service)型で提供するもの(編集部注:BPOSは日本でもサービスを開始した,関連記事1関連記事2関連記事3)。1ユーザーあたり月額わずか15ドルで,利用するための「シート」を購入できる。

 この戦略的な価格設定により,普通なら社内にExchangeサーバーを設置しようなどと決して考えないような中小企業でも,Exchangeと併用してはじめて「有効」になるMicrosoft Office Outlookのいろいろな機能を利用できるようになるのだ。たとえば,グローバル・アドレス一覧や会議室のスケジューリング,会議への承諾/辞退ボタン付き招待状,カレンダ,Windows Mobile 6デバイスへの無料のダイレクト・プッシュ電子メールなどの機能が利用可能となる。それ以外に,文書共有に関してはSharePoint Online,リアルタイム・コラボレーションに関してはLive Meetingが利用できる。

 このBPOSについて,ITプロの視点から2回に渡って解説する。今回は同オンライン・サービスの概要を簡単に紹介する。次回は,BPOSを実際に利用する場合の展開や管理に関するヒントを交えながら,サービスのセットアップ方法を説明していく。

BPOSのエディションは3種類

 まず,BPOSのサービス・ラインナップを確認しておこう。BPOSには,Standard,Dedicated,Deskless Worker--の3つのエディションがある。

Standard:このStandard版がBPOSの標準となるエディションだ。Microsoftのデータセンターでは,マルチテナント・アーキテクチャを使用して,この標準的なサービスを展開している。このため,クラウド・ベンダーのサーバー上で同ソフトウエアのインスタンスを1つ実行するだけで,複数のクライアント組織,すなわちテナントにサービスを提供できる。これにより,非常に便利なサービス群を手軽な価格で提供することが可能となるのだ。このStandard版では,最も価値の高い中核的なサービスだけを提供するとともに,ユーザーによるカスタマイズを制限することで,ソリューションの拡張性を向上させ,価格を低く抑えた。このStandard版への移行や評価を行なうときは,何がカスタマイズ可能で,何がカスタマイズできないのかを把握しておくことが重要だ。

Dedicated:Dedicated版は通常,5000シート以上の企業向けの特別契約である。Microsoftが移行やサポート,展開作業を支援する。Dedicated版では,特定のタイプのID連携やSharePointのカスタマイズのサポートなど,複数のレイヤーにおける高度なカスタマイズが可能だ。

Deskless Worker:このDeskless Worker版は,Microsoft Outlook Web Access(OWA)や読み取り専用のSharePointを通してアクセス可能なメールボックスを提供する低価格のオプションである。店舗で働く人やそのほかのシナリオを対象としている。このオプションは,2009年の前半にリリースされる予定だ。