ソフトウエア製品を担当するMicrosoftチームの誰もが,同社の「ソフトウエア+サービス」(S+S)戦略に積極的に取り組んでいると主張している。ソフトウエア+サービスとはMicrosoftが進めている基本戦略で,社内に置いた「ソフトウエア」とインターネット上にある「サービス」とを組み合わせて,企業の情報システムを構築するというものである。インターネット上のサービスには確かに便利な点はあるが,それだけで企業の情報システムすべてをカバーするのは現実的ではなく,社内のソフトウエア(を搭載したサーバー)と適材適所で組み合わせるのが,企業にとってのメリットとなるという主張だ。

 だが,Microsoftの社内にはソフトウエア・ベースのソリューション提供を担当しながら,同時にMicrosoft Azureとして発表されたクラウド・サービスへのシフトもサポートしなければならない微妙な立場に置かれているチームもある。Small Business Server (SBS) 2008とWindows Essential Business Server (EBS) 2008の記事に関連して取材した相手がまさにその立場の人たちだった。

 筆者はSBSとEBSのそれぞれの担当チームに取材した上で,さらにSBSのMVP(Most Valuable Professional)であるSusan Bradley氏とNick Whittome氏からも意見を聞いた。すると,ソフトウエア+サービスに向かうMicrosoftの微妙な立場が浮かび上がってきた。MVPのBradley氏とWhittome氏は,中小企業にとってSBSとEBSに付属しているExchange Serverを使うよりも,クラウド・サービスのようなホスティング型の電子メール・サービスのほうが都合がいい場合もあると指摘する。その一方,MicrosoftにおけるSBSとEBSの担当者はS+Sをサポートする姿勢を示しながら,担当製品の一部であるExchange Serverの必要性も主張しなければならないのだ。

ソフトウエアによるソリューションの必要性を訴えるMicrosoft

 SBS/EBS/Windows Home Serverが含まれるWindows Essential Server Solutionsファミリの製品マネージャであるDevesh Satyavolu氏は,Microsoftの立場について次のように説明した。「Microsoftはクラウド・サービスを目指して進化している。そして,SBSも含む全製品がその対象に含まれている。いま私たちが話しているバージョンにすでにクラウド・ベースのサービスが組み込まれていることがその証拠だ」。SBSの上席製品プランナーであるGuy Haycock氏も「SBS 2003にはS+Sは存在しなかったが,SBS 2008には5個のS+Sが統合されている。Microsoftが小規模企業の選択肢を増やしたことはよいことだと思う」と付け加えた。

 その上でSatyavolu氏は,インターネット上のホスティングによるクラウド・サービスではなく,SBSやEBSに組み込まれているソフトウエア・ソリューションを選択する理由について説明してくれた。「典型的な中規模企業ならば,ITインフラストラクチャはすでに整備されていて,2~3台のサーバーが稼働していると思う。そののような企業が,まず『オンライン・サービスに加入するとしたら今のインフラストラクチャとどうやって統合するのか。Active Directory(AD)で管理している社内のユーザー情報は,どうやってクラウド・サービスと接続するのか』といった疑問が頭に浮かぶだろう。これは重要な問題だ」。

 Satyavolu氏は,さらに続ける。「企業が次に考えるのは,『クラウド・サービスは自動的にユーザーをプロビジョニングしたり,パッチを適用したり,そういったもろもろのことを処理してくれるのだろうか』ということだ。業務用アプリケーションを使っている企業では,一部のミッション・クリティカルなアプリケーションがクラウドに対応していないということに注意する必要がある。次に気になるのは管理のことだろう。医者ならば,プライバシの問題は重要だ。そのほかにも言語,可用性,サポート,そしてコストの問題がある。クラウド・サービスの利点は,保守のわずらわしさから解放されるということだ。だが,私は顧客から『今月もこれだけの料金を払ってるのに,いつまでたっても自分の物にならない』と言われ続けている。結局,今はまだ道のりの途中なのだ,というところに戻ってきてしまう」。

中小企業ならクラウドで十分と語るMVP

 これに対し,MVPのBradley氏とWhittome氏は,確かに状況が異なれば求められるソリューションは異なる,という部分に関しては同意した。その一方で,Bradley氏は「Gartnerは従業員数1000人以下の企業はすべてWebベースのメールを使用すべきだと信じている」とも言った。

 Whittome氏も「Webベースの電子メールを検討している小規模企業についてはGartnerの言うことは正しいと思うが,(前提となる企業規模は)異なっている。私は,10ユーザー以下の企業にはホスティングによるクラウド・サービスを導入すべきだと思っている。業界の専門家の中には,中小規模の企業におけるメッセージングはクラウド・サービスに任せるのがベストと主張する人がいる」と話した。

 その上でWhittome氏は,「そのニーズが確かにあるのは認めるが,私はそれがすべての企業に当てはまるとは思わない」とも話した。Bradley氏も同様の指摘をする。「Webメールがすべての顧客にとって最適なソリューションだとは思わない。信頼性またはセキュリティ上の理由で,社内サーバーを必要とする企業はまだまだたくさん存在している」。

 Whittome氏も同意して,さらに続けた。「メッセージング・サーバーをクラウド・ベースにしたいと考えている企業もあるかもしれない。だが,データの保存と法律面からのニーズを考えると,メッセージング・サーバーはクラウド・ベースよりも社内サーバーにするほうが好ましいと思う。いずれにせよ,EBSやSBSをメッセージング・サーバーとして社内で運用している企業には,サーバーのフロントエンドとしてクラウド・ベースのフィルタリング・ソリューションを導入することを提案したい。このソリューションは,75ユーザー/デバイスというSBS 2003の制限を超えてしまうような規模の企業を担当するコンサルタントからすごく歓迎されていて,興味を持つ人が増え始めている」

ソフトウエアとサービスの競合は不可避

 ソフトウエアとサービスを結合するというマイクロソフトの主張は,選択肢が与えられる点で顧客にとってはメリットとなろう。だが,たとえそれが「ソフトウエア+サービス」という関係を築くための補完的なものだと主張しても,Microsoftが提供するクラウド・サービスが従来のソフトウエア・ビジネスと競合することは,ダーウィンの進化論で指摘されているように避けられないことだろう。