中国市場を開拓する上で、大きな課題は物流網の整備。それを支える日本通運は、物流サービスの精度を向上させるべく、手を打っている。良いとは言えないIT環境の中、システムを安定稼働し、確実に品物を届ける。

 部品が届かなければ、商品は製造できない。商品が届かなければ販売機会を失う――。

中国各地を運行する日通の配送車
中国各地を運行する日通の配送車

 面積にして日本の約26倍もの国土を持つ中国で、物流サービスを提供する香港日通。今や中国の30都市に71の拠点を構える。資訊科技部の山下卓経理は「2000年ごろから、特に製造業を中心に日系企業がサプライチェーン管理を強化し始め、オーダーが厳しくなってきた」と振り返る。配送量も急増している。自動車工場が集積する広州では、ある拠点だけで8トントラックを年間8255台も運行しているという。

 交通事情が悪い中国では、国内の配送業者を利用すると、納期順守率は5割にも満たないといわれる。そんな中で日通の順守率は9割を超えている。

サーバーと回線を徹底的に二重化

 安定したサービスを提供するために、日通が重視しているのはシステム基盤である。「情報システムがうまく動かなかったり、通信ができなかったりすると、出荷も入荷もままならない。システムの安定稼働を最重要視している」と、アジア・オセアニア地域の情報システム部門を統括する、香港日通の中島紀夫電脳部総経理は説明する。

 香港日通が講じた施策の1つはインフラの整備。もう1つはアプリケーション開発体制の強化である。

 中国のインフラで特に懸念されるのは、通信が不安定であることだ。システムは動いていても、通信が途絶えてしまっては元も子もない。物流の状況が把握できなくなれば、顧客のサプライチェーンが切れてしまう。

 そこで香港日通は02年から、サーバーと回線の二重化を進めてきた。07年3月には、香港日通の本社のサーバー室に置いた基幹系システムのバックアップ系が稼働した。中島総経理は「これでようやくシステム基盤が整った。香港全体に深刻な大規模災害でも発生しない限り、システムが止まることはない」と断言する。

 中国国内のネットワークについても、各都市にある配送拠点や支店を結ぶ通信回線のうち、主要なものを二重化した。単純に二重化すると、回線費用が膨れ上がってしまう。そこで、華北、華中、華南の3地域に“ハブ”を設け、そこを中継地点にすることで、通信費削減と通信の安定性確保を両立させている(図6)。万が一、ハブを経由して通信できなくなったら、自動的にほかの経路をたどってサーバーに接続できる。さらに日本などへのルートも二重化しているため、06年12月の台湾沖地震の時でも業務には全く支障を来さなかったという。トータルの通信費は、「IP-VPNサービスを利用することで、専用線の時代に比べると年間数千万円安くなった」(山下経理)。

図6●日通はサーバーや回線を徹底して二重化した
図6●日通はサーバーや回線を徹底して二重化した
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 そもそも香港にサーバーを設置したのにも理由がある。「政治不安が小さく、テロや地震の危険性も低いからだ」(中島総経理)。

アプリ開発も徐々に現地化

 もう1つ、香港日通が整備してきたのが、アプリケーション開発のための体制作りである。香港日通の基幹系システムは、日通グループ世界共通の「NEWINS(Nippon Express Worldwide Information Network System)」と呼ぶパッケージを利用する。インターネットを使って貨物や在庫を検索する機能を標準で備える。問題は、中国事情を踏まえた機能強化が必要であることと、日系企業の個別の要望にシステム面で対応する必要があること、である。

 「大手顧客の要望に応えてシステムを開発・サポートするだけの体制は整った」と中島総経理は言い切る。香港日通が抱える開発要員は28人。さらに、24人のサポート部隊が、異常が発生した現場に駆けつける。

 この体制で、香港日通独自のシステム開発も進んでいる。07年5月にはGPS(全地球測位システム)を使った荷物の追跡管理システムが稼働する。まずは自動車などの部品を扱う広州でトラック80台にGPS端末を搭載する予定だ。顧客企業は、実際に荷物が広州のどこにあるかをリアルタイムに、これまでよりも細かく把握できるようになる。



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