最近,IT企業による環境関連の発表が相次いでいる。

 日立製作所は9月27日,データセンターの消費電力を現状よりも50%削減することを目標とした技術開発計画「CoolCenter50(クールセンター50)」を発表した(関連記事1)。翌28日には米インテル上級副社長のパット・ゲルシンガー氏が都内で会見,省エネ技術や環境に配慮したIT利用法の開発に取り組む業界団体「Climate Savers コンピューティング・イニシアチブ」の活動をアピールした(関連記事2)。さらに10月5日には松下電器が,今後3年間でグロバールな生産活動による二酸化炭素(CO2)排出量を30t削減すると発表,初めて「総量削減」を宣言して注目を集めた(関連記事3)。

 日本政府も動き出した。10月4日に開催されたグリーンITシンポジウムでは,経済産業省 商務情報政策局の星野岳穂参事官が「政府として,ITの省エネ対策技術に本腰を入れて取り組んでいく」と発言(関連記事4)。サーバーの液冷技術やストレージの高密度化,ルーターの電力制御技術,冷却の必要のない耐高温半導体などの先進技術で環境に貢献し,同時に日本の競争力強化を図る。同シンポジウムでは,米IBMが5月に発表したデータセンターの消費電力量削減プロジェクト“Project Big Green”についての講演もあり(関連記事5),会場の関心を集めていた。

グリーンITの本質はビジネス・イノベーション

 政府やベンダーの環境対策熱の高まりに比べ,企業のIT部門の関心はいま一つだ。「サーバーの発熱や電源容量に対して問題意識はあっても,具体的な対策はこれから」という実態が,ITpro Researchモニターを対象に行った「企業のデータセンター利用に関する調査」で明らかになった(関連記事6)。それによると,「IT機器の省電力化によるCO2削減目標や行動計画を設定」している企業は,回答者全体(352件)の4分の1にも満たなかった。

 なぜ関心が低いのかと言えば,結局のところIT部門にとって「環境対策」=省電力=コスト削減──を連想する人がまだ大半を占めているからだろう。いわゆる「紙・ゴミ・電気」のコスト削減の取り組みに,がぜんやる気が出る人はそう多くはないはずだ。

 世間でしばしば聞かれるようになった「グリーンIT」という言葉も,IT機器やデバイス,データセンターの省電力や熱対策,つまりIT利用によって生じた問題をいかに解決するかという意味合いで使われることが多い。

 しかし,「グリーンIT」はITによって環境と企業価値に貢献するという,より積極的な意味を含んでいる,と筆者は思う。実際,企業のIT活用コンサルティングを手がけるアイ・ティ・アールの生熊清司シニア・アナリストは,ITによる環境影響のプラス面とマイナス面の両方から,バランスのとれたアプローチが重要であると話す。

 グリーンITにおけるIT部門の重要な役割の一つは,省エネ機器の導入やシステム統合など,足下の環境対策を着実に進めること。そしてもう一つ,「ITを活用してビジネス・イノベーションを起こし,収益の増大と環境問題の解決とを両立させる戦略や施策を,IT部門が提案すべき」と,生熊氏は主張する。

 冒頭に紹介した各企業の取り組みに見られるように,環境と経済の両立を目指す環境経営は,すでに企業戦略の中枢にある。IT部門が企業の抱える環境面での課題を理解し,ITによるプロセス革新でその解決策を提示できれば,企業内におけるプレゼンスは大いに高まる。「グリーンITにこそ,IT部門が経営の表舞台に立つための鍵がある」(生熊氏)。

環境貢献の“見える化”がポイント

 ITによる環境経営のイノベーションとはどのようなものか。生熊氏はコンビニエンス業界のケースを例に挙げた。

 コンビニ業界は,大量の廃棄商品とゴミ処理の問題を抱え,ビジネスモデルそのものへの批判が高まっている。「例えばローソンの場合,2004年に販売額ベースで約400億円の廃棄ロスが発生したが,これは同社の通期の営業利益にほぼ匹敵する」と生熊氏は問題の大きさに言及する。廃棄ロスよりも欠品による機会ロスを重視するあまり,オーバー発注が後を絶たないのが実情だ。

 そこで,ITを活用したビジネス・イノベーションを考える。商品の在庫管理システムを改良して加盟店の廃棄ロスと機会ロスとの見極め精度を上げ,さらに物流システムの見直しで機会ロスを減らすことができれば,収益の拡大と省資源の両方を達成できる可能性がある。これらのシステムに数十億円投資したところで,毎年400億円も発生する廃棄ロスの何割かを削減できるとすれば,投資対効果は十分なはずだ。

 ここでのポイントは,収益面だけでなく,環境面での貢献を“見える化”することだ。よく使用される評価手法は,CO2排出量をどれだけ削減できたかを見積もるLCA(ライフサイクルアセスメント)である。家電製品やハイブリッド車などのカタログで「CO2削減効果○t」といった記載を目にした人も多いだろう。

 LCAは製品評価だけでなく,サービスやプロセス改革などの評価にも使える。省エネ型機器の導入によって,あるいは,IT活用によるビジネス・イノベーションによって,どれだけ環境負荷を削減できたかをCO2排出量や資源消費量などの数値で見える化すれば,企業価値への貢献度がより明確になる。

 環境をキーワードにしたビジネス・イノベーションのタネは,あなたの会社にもまだまだたくさんころがっているはずだ。ITproが10月1日に立ち上げた特番サイト「グリーンIT」は,ITの持つマイナス要因をいかに解決し(省電力や熱対策など),プラス要因をいかに引き出すか(物流の効率化や資源消費の削減など)という両方の視点から情報を提供していく。IT部門発の“グリーンIT戦略”の策定にぜひ役立ててほしい。