オープンソースのIP-PBXソフトウエア「Asterisk」(解説記事)が日本で注目されるようになったのは,2005年末ころから。オープンソースであるため安価な製品を作りやすいことから,注目を集めだした。2006年にはAsteriskをベースにした製品が続々と登場し,販売や施工,保守を請け負う業者が出てくるようになった(関連記事)。

図1●2006年冬から現在にかけてのAsterisk製品の動向
図1●2006年冬から現在にかけてのAsterisk製品の動向
 最近は導入・運用のしやすさ,搭載する機能の充実振りを重視する動きが目立つ(図1)。例えばAsteriskが搭載しているIVR(自動音声応答機能)やACD(自動呼分配機能)にスポットが当たるようになっている。IVRは電話をかけてきたユーザーに対し自動音声で案内を流し,そこで発信者が入力した番号によって通話を転送するといった処理をする仕組み。ACDはかかってきた電話を効率よく(例えば待ち時間の長いユーザーから順番に)振り分けていく仕組みだ。いずれもコールセンターや音声情報提供サービスなどで広く利用されているが,安価なIP-PBXが標準装備する機能ではない。Asteriskの出現により,一般企業が安価にIVRやACDを導入・活用できる最初のチャンスが出てきたといえる。

一般企業へ浸透開始,自力導入に挑戦した事例も登場

 Asterisk製品を導入するユーザー企業にも変化が見られる。これまではLAMP(Linux,Apache,MySQL,PHP/Perl/Python)やサーバー運用に詳しいシステム開発会社やソフトウエア・メーカーなどの導入事例が大半だった(関連記事)。しかし最近は,一般の企業が導入する事例が出始めている。

 2006年夏に会社を設立し,この4月に衣服を保管し顧客がWebから検索できるサービスを始めるオルガメタ(東京都江東区)は,2月のオフィス移転に合わせモバイル・テクニカのAsteriskアプライアンス「xCube」(クロスキューブ)を導入した(図2)。代理店経由で購入すると面倒を見てもらう分だけ高く付くことから,自力導入に踏み切った。費用はトータルで22万円程度である。

図2●自力でIP-PBXの初期設定にトライしたオルガメタ
図2●自力でIP-PBXの初期設定にトライしたオルガメタ
IP-PBXがひかり電話にじかにレジストできない製品だったため,ISDNにしてさらにVoIPゲートウエイを通過させる構成にした。

 ユーザー企業の自力導入への意欲を後押しするのは,初期設定の作業がいかに簡単で分かりやすいか。ここに注目してモバイル・テクニカは,3月に「xCube Lite」を発売している。接続可能なIP電話機やIP電話サービスを限定する代わりに設定内容を簡略化したウィザードを持ち,15~20分で導入できるとしている。オルガメタはxCube Liteの発売に移転が間に合わず,従来製品を導入した。

 結果的に同社は自力導入に成功するが,一筋縄ではいかなかったという。その最大の原因は,同社が採用したNTT東日本の「ひかり電話」のSIPサーバーにxCubeを直接レジスト(SIPでつなぐ)することができなかったこと。接続検証が済んでいないためだ。そこでVoIPゲートウエイを加えてxCubeとBRI(ISDN用インタフェースの一種)で接続したが,オルガメタは設定開始当初,IP電話サービスを使うのでISDN設定は無関係だと考えてしまった。

 西宏司代表取締役社長兼CEOは,「よく考えた結果正しい設定に行き着いたが,2日間ほどかかってしまった。無線VoIP端末とxCubeをつなげる方法は分からなかった」と振り返る。週明けにモバイル・テクニカのサポートのアドバイスを得て設定をすべて終えたという。