Asterisk市場が勢いづいているのはベンダー側が動いているからだけではない。ユーザー企業によるAsterisk導入も始まっている。Asterisk製品の開発元などからは「中小企業を中心に,既に200社以上に製品を納めた」,「IP電話機1万台以上という規模の企業から何件か問い合わせを受けた」などの声が聞こえる。

 先行企業はいずれも,オープンソースになじみがあり,自力でシステムを構築できる力を持つケースがほとんどである。例えばシステム開発を手掛ける時空(本社・仙台),セキュリティ・ソフトのベンダーであるアークン(本社・東京)などだ。これらの企業がAsteriskにチャレンジした理由は何か。事例を見てみよう。

 時空は,導入コストとベンダーの自由度を重視した。同社がAsteriskを導入するに当たってかかったコストは,35人規模で360万円。内訳はターボリナックスのInfiniTalkを50ライセンス分とIBMのラックマウント・サーバー,35台のIP電話機,VoIPゲートウエイ2台。これにインテグレーション費用が加わっている。このコストは,比較検討したIP-PBX製品(定価ベース)より60万円安かった。

 導入コストは常に期待通りに安くなるとは限らない。時空のような場合でも,対抗製品が大幅に値引かれたりすると,コスト面でどちらに軍配が上がるかは分からない。ただ時空の場合は他に,ベンダーを固定せずにIP電話を導入・運用できる方法を重視していた。旧来のPBXメーカーの製品はPBXと電話機の親和性が高く,ユーザーは特定ベンダーの製品しか選べないことが多い。そうなると,安いIP電話機が登場しても使えないなどの事態が起こりかねない。そこでオープン性が高く,将来的に多くのベンダーが参入し得るAsteriskを導入することにした。

  写真1●ネットグリッドがオープンソースのAsteriskを使って構築した社内電話システム[画像のクリックで拡大表示]
  写真1●ネットグリッドがオープンソースのAsteriskを使って構築した社内電話システム

 LAMP(Linux,Apache,MySQL,PHP/Perl/Python)と呼ばれるオープンソース・ソフトを核にWebシステム開発を手掛けるネットグリッドは,システムの拡張性に期待を寄せる。同社は最近,離れた場所にオフィスを増設することになり,内線を導入する必要性に迫られた。あるベンダーの見積もりを取ったところ100万円前後。「高いと感じた」(プログラマーの井上義勝氏)。

 そこで同社は社内に余っていたPCにAsteriskをインストールし,自前の電話システムを作り上げた(写真1)。電話機は秋葉原でIP電話機「SNOM220」を探し出し,7800円で購入してきた。こうしたIP電話機をAsteriskにつないで使いこなすためのパッチが配布されていることも調べたという。Asteriskベースの商用製品があることも認識していたが,「どこまでカスタマイズできるか分からない。それならばオープンソースの方が良かった」。まだ導入の最中だが,コストは20万~30万円で収まる見込みだ。

  写真2●ジェイケンの小西寛史代表取締役
  写真2●ジェイケンの小西寛史代表取締役

 Asteriskの実績,ノウハウ,サポート体制の欠如については,今採用している企業は実はあまり気にしていない。自社で運用し,問題もある程度まで自力で解決できる自信があるからだ。固定電話に対して求める信頼性の度合いが以前とは変わりつつあることも理由の一つだろう。

 例えばコンテンツ開発会社のジェイケン(本社・東京)は,リンクが提供するAsteriskのホスティング・サービス「Biztel」を利用している。決め手は外線接続も含め全部任せられ,安価で済むこと。耐障害性について小西寛史代表取締役は,「万が一の折には,携帯電話で済ませばいい。メールも活用できるだろう」(写真2)と言う。