「Skype」というインターネット電話ソフトが一般公開されてから,はや3年半。「IT業界は他業界の7倍の速度で進む」と古くから言われているが,この3年半はまるで20年のごとく,いまやSkypeはすっかり定着している。

 米eBay傘下となったSkypeは今も目覚ましく成長を続けている。本コラムのテーマとしてSkypeを最後に取りあげたのは2005年の3月。当時の登録ユーザー数は3100万人(本コラム記事)。これだけでも十分インパクトのある数字だったが,その後のユーザー数はそれを大きく上回っている。1年後の2006年3月時点では9460万人と約3倍に,さらにそのほぼ1年後の今年2月現在では1億7100万人にまで増えている(図1)。

図1●Skype登録ユーザー数推移
図1●Skype登録ユーザー数推移  (単位:1万人)

 業績についても同じことが言える。2006年第4四半期における米eBayのSkype事業売上高は6600万ドル(関連記事)。同社がeBay傘下に入った前年同期から2.6倍増えた(図2)。Skypeの好業績を支えているのは,相次ぐ有料サービスの投入や,通信キャリア/通信機器メーカーとの連携と考えられる。本稿ではその後の同社の施策をレポートしながらSkypeが目指す方向性などについて考えてみる。

図2●Skype事業売上高
図2●Skype事業売上高  (単位:1万ドル)

「1対1通信」から「多人数参加型サービス」へ

 同社は2006年の12月13日,Windows向けSkypeの最新版「Skype 3.0 for Windows」をリリースした。最大100人まで参加できる音声会議機能「Skypecasts」や,誰でも自由に公開/参加できるテキスト・チャット「Public Chats」,Skypeに各種のオプション機能を追加できるプラグイン「Extras」などを提供している。これらによりSkypeは,1対1の通信機能を提供するソフトフォンから,多人数参加型サービスへの転換をさらに推し進めた(関連記事)。

 この流れは現在開発中のベータ版にも受け継がれている。同社が2月22日に公開した「3.1 Beta for Windows」では「SkypeFind」と呼ぶ企業/店舗検索機能を搭載する。これにより,例えば近くのレストランやペット店,または渡航先のホテルなどを探すことが可能になる。検索結果画面の「Call」ボタンを押せばSkypeOutによる通話も可能。個々の店舗情報はユーザーがSkype上で自由に投稿し,コメントや評価(レート)も掲載できる。他のユーザーに質問メッセージを送ったり,前述の「Public Chats」と連携し,ユーザー同士でその店に関する情報を共有できるという。

Skypeでマッシュアップ

 Skype情報に詳しいSkype Journalによれば,Skypeのこの新機能は「GoogleMaps」「Yahoo!Local」「Windows Live Local」といった地域情報サービスに匹敵するサービスとなる。SkypeはこのSkypeFindにより,同市場に本格参入することになる。「これはまさに企業ディレクトリとレーティング・サービス,そしてソーシャル・ネットワーキング・サービスのマッシュアップ」(Skype Journalのブログ記事)という。

 Skypeのブログ・サイトではSkypeFindについて次のように説明している。「(SkypeFindは)ここ最近我々が開発してきたなかで最も興味深い機能。(中略)しかしまだ我々は,この機能のほんの一部を開発したに過ぎない。今後もさまざまな展開が期待される」(Skypeのブログ記事)。例えば,SkypeFindのWebへの展開や,WebベースのフィードやAPIの公開,地図機能の追加などが考えられるという。

 なるほど。Skypeは今後もさらにおもしろくなっていきそうだ。世界中の2億人近いユーザーが提供する情報により,世界最大の電話帳が誕生する。しかしそれはただの電話帳ではない。チャット,Web,地図などと連携し,新しい形の「Skypeコミュニティー」を形成していく---。同社はそんな展望を描いているようである。