このコラムは本来,SQL Serverに関する情報をお届けするものだが,今回の記事は普段と少々異なる内容になっている。データに関する話題という点では同じだが,SQL Serverにはほとんど関係がない。筆者は今回,「大衆向けのBI(ビジネス・インテリジェンス)」という概念が変わろうとしていることについて,最新のニュースを紹介したいと思っている。
事の発端は,知人が送ってきてくれたメールで,その件名は「『大衆向けのBI』に対する見方が変わるかもしれない」だった。筆者はこれまで一貫して,誰もがデータを分析できるようになる「大衆向けのBI」という概念を熱心に支持してきたし,このアイデアについて何度も記事を書いてきた。それがいつか現実のものになると考えているからだ。だからそのような件名のメッセージが筆者の関心を引かないはずがない。
彼のメッセージを正しく理解して頂くためには,「TechCrunch」というブログにある「Swivel Aims To Become The Internet Archive For Data」という記事と,そこについたコメントを読んでもらうのが一番だろう(日本語版はこちら:Swivel,データのためのインターネットのアーカイブを目指す)。簡単にいうとSwivelとは,誰でもデータをアップロードして,そのデータに対して統計的な分析を加えたり,データ分析を視覚的に表示(レポート化)したりできるサイトなのだという。
Swivelを「インターネット上のデータ・アーカイブ」と呼び,それを「データ版のYouTube」と表現することは,まだプレビュー段階にしか過ぎないサイトにとって,不適当かもしれない。実を言うと筆者も,Swivelが実際に上手く機能するのか検証する前に紹介することに,ややためらいを感じている。しかし,Swivelのアイデアは非常に興味深いので,紹介せずにはいられないのだ。筆者にとって「一般大衆向けのBI」という概念は,これまでずっと「企業に重きを置いたもの」という意味を暗に含んでいた。筆者は親戚のスージーおばさんが「BIする」ようになると考えていたわけではない。だがBI(というよりも,データ分析を視覚的に表現する手法一般)が,本当に一般大衆に受け入れられて,主流なものになったら,一体どうなるのだろうか?
誰もがデータ分析結果を共有できる時代に
同記事には,生物情報学の分野で働く匿名の博士課程の学生による次のような言葉が引用されている。「私は,これは面白いものになる可能性を秘めていると感じている。共同研究を行う場合,データを共有できたら非常に便利だろう。API経由でのデータへのアクセスが簡単にできるようになったら,とりわけ便利になると思う。このサイトを通して,出版物といっしょに,そのなかで行った計算を完全に再現する手段もリリースする,といったことまでもが可能になるだろう。こうしたデータや分析にアクセスできたら,他者が即座にその出版物を基にした研究を行えるようになる」
もちろん筆者は,Swivelが登場したことで近いうちに企業ITが不要になるなどとは考えていない。データ・プライバシーやセキュリティの問題はあまりにも複雑である。だが,もしSwivelのようなものが,専用のITサポートなしには「BIする」ことができない門外漢のために提供されだしたらどうなるだろうか。もし企業ITの恩恵に浴することのできないこうした素人からなる一般大衆が,全体的かつ相関的な方法で複雑なデータ・セットを公開したり分析したり,理解したりできるようになったらどうなるだろう。
Wwivelは,世界規模で発生する複雑なデータ分析のレベルを,想像もできないほど大幅に高める可能性を秘めているのではないだろうか。それは単なるインターネット・ブラウザが,検索エンジンと組み合わされることによって,百科事典のようなコンテンツの巨大なコレクションを生み出すのに良く似ているのではないだろうか。このコンテンツのコレクションには,不必要なゴミも,他の手段では見つけることのできないユーザーが探している情報も,その両方が含まれているのだ。これは面白い。
筆者は過去のコラムでスプレッドマートという概念を紹介したし(関連記事:企業を悩ませる「スプレッドマート」問題とは?),スプレッドマート問題の難しさも紹介していた(関連記事:スプレッドマート問題をどう解決すべきか)。また,GoogleがBI分野に興味を示している記事も書いている(関連記事:BI分野でも,MicrosoftのライバルはGoogle)。
Swivelのようなサービスが,世界中のスプレッドマートに保管されているデータと洞察力を解き放つ究極のソリューションになれるのか,ということにも筆者は興味がある。あるいはこれは単なる妙案にしか過ぎず,今後軌道に乗らずに消えていくだけなのかもしれない。
筋金入りのデータ・プロフェッショナルの中には,Swivelのことを愚かな考えだと思う人も恐らくいるだろう。彼らはSwivelのような,管理されていない方法で集められて公表されたデータの正確性に疑問を感じるからだ。筆者も,同様の疑問を抱いている。だが同時に,Googleが途方もない金額でYouTubeを買収したのも,驚くべきことだが事実なのである。Googleが強力なデータ分析帝国を作り上げるという,包括的かつ長期的な計画の一部として,Swivelのようなアイデアに興味を抱くことは十分にありえると筆者は考えている。筆者は,自分がこのアイデアを先に思いつかなかったことを,残念に思っている。