前回の記事「スプレッドマートと呼ばれるデータベース概念とは?」で私は,スプレッドマートとは「スプレッドシートとデータマートの両方を意味する言葉」だと紹介した。この現象は大量のデータ(重要なデータ)がスプレッドシート内に保存されているときに起きる。この環境では,データベースが本来持つべき情報のコントロール機能や共有機能が失われている。しかし,多くのビジネス・ユーザーがスプレッドシートに依存しているのが現実である。

 私はスプレッドマートに関して,2つの仮説を持っている。

・膨大な量の企業データは今後も,データベースではなくスプレッドマート内に存在し続けるだろう。

・消費者が持つデータのほとんどは(例えばクリスマスカードの送付先やレシピ)は,今後もデータベースではなく,スプレッドマートに保存され続けるだろう。

 言い換えると,スプレッドマートはもう定着してしまっているということだ。したがって,私たちは「スプレッドマートをどう管理すべきか」,ということを論じなければならない。

 今回は,スプレッドマートの将来像について考えてみたいと思う。正統派データベースの信奉者は,この未来像にきっと気分を害されることだろう。スプレッドマートに関しては,今後も継続して記事を掲載していく予定なので,今回は,読者の皆様に不快な思いをさせてしまうかもしれないスプレッドマートの未来像を描くのに留めさせて頂きたい。

 前回紹介したように,米Microsoftはスプレッドマートを管理する興味深いテクノロジをいくつか計画している。Microsoftが実際に「スプレッドマートを解決する」という目標に懸けているわけではない。だが同社は,進化したコラボレーションを実現する長期的で包括的なキャンペーンに乗り出している。私は自分の主張を極端に簡略化したいわけではないが,コラボレーションにおけるデータ管理を論じるのであれば,スプレッドマート管理の話題を避けることは絶対にできないと思う。

 Microsoftのスプレッドマートに関する方向性は,Officeを軸に決まるだろう。Microsoftがコラボレーション機能を普及させるのにOfficeアプリケーションを利用しているのは,最近発表された「Office PerformancePoint Server 2007」を見ても明らかだ。方向性としては素晴らしい。このアプローチは莫大な価値を提供すると私は思う。Office 2007の本当に素晴らしい機能は,コラボレーションにおけるデータ管理に関連するものなので,これからもっと多く紹介する予定だ。

Googleスプレッドシートの発展形が,スプレッドマートを解決する?

 しかし,Microsoftによるスプレッドマート管理へのアプローチに欠陥はないだろうか。私は先日,「Google OneBox for Enterprise」という企業向け検索アプライアンスが発表されたことを紹介し,Google OneBox for Enterpriseが,アプリケーション管理とデータ管理を行う環境になるであろうと指摘した。そしてGoogleは先日,Web版の表計算ソフト「Googleスプレッドシート」の評価版を発表した。Googleスプレッドシートは,Excelや他のデスクトップ向け表計算ソフトのように機能満載というわけではないが,サーバー・ベースで,複数の人間が同時にデータ編集を行えるよう設計されている。なるほど。Googleは「コラボレーション」という常套句は使わなかったが,Googleスプレッドシートは間違いなくコラボレーション・ツールであるように思える。つまり,Microsoftが狙っているのと同じ市場をネラ手散る。

 この話題についての私の考えを,小さなスペースにすべて収めるのは難しい。それでも,このことについてとことんまで考えてみよう。エンドユーザーの目から見て,スプレッドシートはデータの閲覧や送受信をする手段として,そんなにもひどいもなのだろうか。もちろん,そんなことはない。スプレッドシートは素晴らしいエンドユーザー用ツールだ。

 しかし,スプレッドシートへの過大な依存が生み出す問題に対処しなければならない企業のIT担当の人々にとって,スプレッドシートは悪夢のような存在である。それでも,「エンドユーザー側から見るとスプレッドシートのような感じであり,バックエンドではデータベースのような感じのするデータ・ツール」を思い浮かべてみてほしい。しかもこのツールには,セキュリティや拡張性,マルチ・ユーザー接続,高速検索といった,従来のデータベースが持っている,つまりデータベース信奉者が愛する機能も搭載されているのだ。

 Googleスプレッドシートでなくてもよい。もし,スプレッドシートの最も優れた部分と,データベースの最も優れた部分を融合する方法を誰かが思いついたとしたら,どうなるだろう。これは素敵なアイデアに聞こえる。私は,Googleがこのような方向を目指していると言っているわけではない。また,たとえ本当にその方向を向いていたとしても,Googleが成功すると言っているわけでもない。しかし,それが興味深いアイデアであることは間違いない。そしてそれをできる人がいるとして,その人物が検索とインデックスのテクノロジで世界をリードする企業(訳注:Googleのこと)から出てきたとしても,私は驚かない。

 今回私が執筆した論説は,すぐに忘れ去られてしまうかもしれない。しかし,もしかしたら3~5年後に私は,消費者や企業におけるスプレッドマート・データの利用や管理を劇的に進化させるという触れ込みの,発売後間もない製品やサービスに関する記事を執筆しているかもしれない。もし後者のような事態になった場合に,この記事を思い出して頂けるとうれしいと思う。果たしてどうなるだろうか。