写真1 刷新された「iTune 7」の画面。「Cover Flow」表示。マウス操作で各アルバムのジャケットをパラパラめくることができる。動作もスムーズで使いやすい
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 iPodシリーズ全モデルの刷新,iTunesの新版「iTunes 7」,映画コンテンツのダウンロード販売,そしてデジタル・コンテンツをテレビに映し出す「iTV(仮称)」――。米Apple Computerが米国時間9月12日に開いた「特別イベント」は実に盛りだくさんの内容となった。

 Appleは9月5日,記者やアナリストに向けてこのイベントの招待状を送付。そこには,ハリウッド・スタイルのスポットライトを背景にしたAppleのロゴと「It's Showtime」の文字。発表内容については何も書かれていなかったが,それがエンターテインメント関連であることを示唆していた。これにより,業界関係者やMacファンは確信した。イベントの目玉は間違いなく映画とiPodだ,と。

 Appleが今回発表したものは多い(関連記事1関連記事2)。映像コンテンツの視聴向けにディスプレイやバッテリ駆動時間を改良した新型「iPod」。音楽ファン向けには,「世界最小プレーヤ」という「iPod shuffle」,5色のカラー・バリエーションをそろえた「iPod nano」。Mac/Windows向けソフトの新版「iTunes 7」では,新しいインタフェースを用意し,使い勝手の向上も図った(写真1)。これにはアルバム・ジャケットの自動入手/貼り付け機能や,音に継ぎ目のない複数トラックの楽曲をオリジナルCD同様に聴けるようにするギャップレス・プレイバックといった新機能も用意した。

「Apple,リビングルームに進出」

 さまざまな新製品/新機能/新サービスが一挙に登場したことで,まだ興奮冷めやらぬといった状況だが,米国のメディアがとりわけ話題にしているのが,映画のダウンロード販売サービスである。

 各メディアを見ると,「Apple,リビングルームに進出」(米New York Times),「Apple,テレビ市場に照準」(米Los Angeles Times/閲覧には登録が必要)といった見出しが躍っており,Appleの同市場への参入に注目しているのがよくわかる。

 Appleは,音楽配信事業を軌道に乗せ,携帯デジタル・オーディオ・プレーヤ市場で7割のシェアを獲得した。音楽コンテンツは,当初主流だったサブスクリプション形式でなく,1曲ごとの売り切り形式で提供。オーディオ・プレーヤはいち早くハードディスク装置を搭載し,数千もの楽曲の持ち歩きを容易にした。Appleの手法はいつも独自路線,それで成功を収めてきた。そのAppleが新たに挑むのが映画コンテンツ市場というわけである。注目が集まるのも理解できる。

ライバルは“つわもの”ぞろい

 しかしながら,Appleはこの市場では後発組。そのためこれから厳しい競争を余儀なくされると伝えるメディアも多い。たとえば米国では,CinemaNowやMovielinkといったサービスがすでに始まっている。GUBAなどのビデオ共有サイトもSony Pictures Home Entertainmentなど大手と販売契約を締結し(関連記事),提供作品数を徐々に増やしている。また今回のAppleの発表に先立ち,9月7日にはAmazon.comが「Amazon Unbox」と呼ぶビデオ・ダウンロード・サービスを開始,市場に参入した(関連記事)。

 これらライバルのサービスで提供される作品数は,1社当たり500本~数千本。これに対しAppleのiTunes Storeはまだ映画が75本程度,テレビ番組は220本に過ぎない(表1)。Appleの提携映画スタジオは現在のところWalt Disney Pictures,Pixar,Touchstone Pictures,Miramax FilmsとDisney系の4社のみ。一方Amazon.comなどは,20th Century Fox,Paramount Pictures,Sony Pictures,Metro-Goldwyn-Mayer(MGM),Universal Pictures,Warner Bros.など多くのスタジオと提携しており,圧倒的な差をつけている。

表1 各社サービスの比較
 (各社が公表している資料やメディアの情報を参考に,筆者が独自にまとめた)
サービス名提供作品数映画販売価格レンタル提供/関連会社
iTunes Store映画75本/TV番組220本9.99~14.99ドルなしApple Computer
Amazon Unbox数千本(TV番組含む)7.99~14.99ドル3.99ドルAmazon.com
MovieLink映画約1700本8.99~27.99ドル4~5ドル映画大手5社
CinemaNow映画4000本9.99~19.95ドル2.99~3.99ドルCinemaNow

 Appleを除く各社のサービスには共通するところが多い。たとえば,いずれも視聴できるパソコンは3台まで(Appleは5台まで)。レンタル・サービスには30日間の期限があり(Appleはレンタルなし),いずれも一度再生すると24時間で視聴できなくなる。またWebブラウザで購入/レンタル手続きし,Windows Media Playerで視聴するといった点も同じである(Amazon.comだけは専用ビューワをダウンロードして視聴することになるが,そこに使われているのはWindows Media技術である)。したがってApple以外のサービスは,いずれもMacintoshには対応していない。

 また,CinemaNowを除くいずれのサービスにおいても,購入したコンテンツをDVDにファイルとして保存することはできるが、DVDプレーヤで再生できるメディアは作れない。これについてはAppleのサービスも同じである。CinemaNowの場合は,再生用DVDを作成できるサービス「Burn to DVD」を提供している(関連記事

 Appleは,今後,提携映画スタジオと作品数を増やすとともに,米国外の世界市場にも積極的に展開していくとしている。しかし,競争激しく,いまだ十分に成功しているとは言えないこの市場で,Appleがどうしたら成功できるのか疑問点も多く,課題は山積しているといえる。

 さらにAppleの強力なライバルとなるCinemaNowは,Microsoft, Lionsgate, Cisco Systems,Blockbusterなどが出資している企業。MovieLinkは,Paramount Pictures、Sony Pictures Entertainment、MGM,Universal Studios、Warner Brosの5社による合弁事業。つまり,これら先行するライバルは,ハイテク企業や映画スタジオと強固なパートナーシップを結んでいる。映画大手自らも市場参入しているというのが今の市場の姿である。Appleはそんな“つわもの”ぞろいの市場に参入したのだ。