===> 後編へ続く

 テレビ朝日系列で,中京広域圈の民間放送局である「名古屋テレビ放送(メ~テレ)」。地上デジタルテレビジョン放送開始から積極的にデータ放送に取組み,さらに今年4月1日に開始したワンセグ放送でもデータ収集と分析を進めている。報道局ニュース情報センター 主事の服部保彦氏と,技術局システム部兼編成制作局デジタルコンテンツ部 副主事の大沢祐行氏に,ワンセグ放送に対する取り組みとサービス内容,そして課題について聞いた。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


--- ワンセグ放送の開始から数カ月経ち,視聴者からどのような反響がありましたか。

 メ~テレでは,毎週土曜日朝9時30分からの「ウドちゃんの旅してゴメン」で,ワンセグ向けの番組連動サービスを提供しています。これは,地上デジタル放送の固定型テレビ向けデータ放送で実施している番組連動サービスと同様のものです(写真1)。

写真1 メ~テレの連動データ放送番組「ウドちゃんの旅してゴメン」

 番組連動データ放送では,キーワードクイズを実施しています。視視聴者に気軽にクイズに参加してもらうことで,ワンセグ放送に親しんでもらうためです。固定型テレビ向けデータ放送からの応募と比較すると絶対数は少ないですが,ワンセグ放送でも着実に応募数が伸びています。

 ワンセグ放送はデータ放送帯域が少なく,情報量が限られているために(「第1回 携帯端末向け地上デジタルテレビ放送「ワンセグ」のしくみと特徴」参照),より詳しいデータを提供するため自社でワンセグ放送用のデータ放送コンテンツ・サーバーを構築しています。非連動のデータ放送コンテンツからは,データ放送コンテンツ・サーバーの1次リンク・コンテンツ(「第2回 ワンセグ放送のサービス・イメージ」の図3参照)に遷移させています。さらに,メ~テレが提供している公式携帯サイトへ誘導しています。

 視聴する時間帯やコンテンツの種類,効率的な誘導方法はアクセスログから分析できます。特にワンセグのデータ放送については,画面の大きさが限られていますので,画面中のどの場所にバナーなどを置けばアクセス頻度が高くなるかといったことを研究しています。

 その結果として,「朝・晩の通勤時間帯」や「お昼休みの時間帯」は,放送開始前の予想通りのアクセスがあります。また,ワンセグ放送では朝7時ごろのニュースのアクセスが上がっています。固定型テレビ向けのデータ放送ではピークが出ない時間帯ですが,ワンセグは通勤時に電車の中や駅で視聴されていると思います。面白い傾向として,ゴールデンタイムや,さらに深夜帯でも25時までは高いアクセスがあります。忙しい人でも短時間の視聴ができるワンセグの特徴がはっきりと出ています。

 また,ライブ感が重要な生放送スポーツ番組はワンセグ・サービスに向いていると考えています。サッカーは画面を縦で見るよりも横で見る方が多いでしょう。とはいえ,ワンセグの小さい画面を長い時間見ることもないと思います。実際にプロ野球では,日曜日よりも平日ナイターのアクセスが多い傾向があり,これは外出中や仕事中に気になった時にちょっと試合経過を確認するような補完的な使い方をしているということでしょう。

---ワンセグ放送開始以前から,さまざまな実証実験などを行ってきました。実際にワンセグ放送を開始して,想定通りだった点や想定と異なっていた点は?

 コンテンツ面では,メ~テレとしての考え方でワンセグ放送のデータ放送コンテンツを制作してサービス開始に臨みました。

 私たちが念頭に置いたコンテンツとは,携帯サイトの利用者の視点で考えた「屋外でテレビを視聴する場合に欲しい情報は何か」です。それはニュースや天気予報だったり,大雨などの時の交通情報でした。実際にワンセグ放送が始まって他局の番組を見ると,各局で重きを置く部分や基本的な考え方が違っていました。これは想定外だった点でしょう。

 また,どこまでの情報をデータ放送で提供して,それからどのように1次リンク・コンテンツや携帯サイトの2次リンク・コンテンツに誘導するかも検討しています。他局のコンテンツを実際に見てみると,データ放送からダイレクトに携帯サイトの2次リンク・コンテンツに遷移し,いきなりテレビ画面が消えてしまう場合もありました。こうなると作り方も違うし,スタンスも違うと感じました。

--- ワンセグ放送によって,視聴機会は増えていると思いますか?

 視聴機会は増えていると思います。特にライブ感の強いスポーツ番組などは,外出中など家のテレビで見られない場合に,短時間であってもワンセグ携帯を使って視聴してもらえていると思っています。

 また深夜帯に,ワンセグ放送を自室で見ている人もいるようです。非連動コンテンツの占いで,コンテンツの変わり目を深夜0時にしていますが,0時のタイミングで占いにアクセスする視聴者が増えることからも分かります。今まで深夜には自室でテレビを見ていなかった人が,ワンセグでテレビを見るようになった。すなわちワンセグ放送によって,テレビから離れていた人達を掘り起こしていると思っています。

 ただ,ワンセグで視聴機会は増えているとしても,固定のテレビに代わるものではないでしょう。今後それぞれ使い方が異なっていくのかもしれません。

--- ワンセグ放送に対する期待は何ですか?

 大きく4つの期待があります。まず第1に報道の視点として,防災対策ツールであると考えています。2番目は自社の携帯サイトからの二次収入を得るツールとしての期待です。

 3番目に,ワンセグ放送をきっかけにして,固定型テレビで番組を見てもらうための広告ツール的な使い方が挙げられます。そして4番目がとして,テレビを視聴できなかった時間帯の“穴”を埋めるツールとしての期待があります。今までは家にいないと触れられなかったテレビが,ワンセグ放送によって外でも身近な存在になるわけです。

 ワンセグ放送を開始してみて,ワンセグ受信端末の価格が高いこと,デザインが女性向けではないこと,一般の携帯電話と比べて端末が大きく重いことなどが,今後の課題になると思います。つまり,端末保有者が30~40代の男性に偏っていることが課題です。

 社内の女性からも,「ワンセグ放送について魅力や関心はあるが,ワンセグ携帯電話がちょっと大きく重い点が買うまでの壁となっていて,実際の購入に至っていない」と聞いています。こうした点がクリアできれば,さらに利用者層が広がっていくのではないでしょうか。

--- ワンセグ放送でデータ放送も一緒に“縦型”で視聴してもらうための対策は?

 液晶画面を横に倒される前に視聴者に「おっ」と思わせる何か仕掛けが必要だと思っています。また常に中身が変わっていて新鮮であることを意識した,視聴者に飽きられないように工夫していきたいです。

 アイデアはいくつかあるのですが,具体的な対応はこれからですただし,あまり硬くしすぎると誰も使ってくれなくなってしまうので,キャラクターを入れるような遊びの部分を採り入れていこうと思っています。

 実際,現状のデータ放送ではかなり作り込みが進んでいて,デザインを手軽に変えることがシステム的に難しくなっています。例えば,文字数制限などです。また,現在はサイマル放送(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:「サイマル放送(サイマルキャスト))」参照)であり,ワンセグのオリジナルな要素を前面に出すことができないという制約もあります。

 今まではテレビを見ているだけだったのが,ワンセグだとテレビを見ながらゲームに参加できるような仕掛けを作るといったことは必要ですね。

 逆転の発想として,「次の問題は○時×分に出題します」とか「○時×分にプレゼント応募情報があります」といった情報を発信することも考えられます。横向きでテレビを見ている状態からもう一度縦型のデータ放送画面に戻るきっかけになるのではないかと思います。

===> 後編へ続く