=== (前編を読む) ===

 テレビ朝日系列で,中京広域圈の民間放送局である「名古屋テレビ放送(メ~テレ)」。地上デジタルテレビジョン放送開始から積極的にデータ放送に取組み,さらに今年4月1日に開始したワンセグ放送でもデータ収集と分析を進めている。報道局ニュース情報センター 主事の服部保彦氏と,技術局システム部兼編成制作局デジタルコンテンツ部 副主事の大沢祐行氏に,ワンセグ放送に対する取り組みとサービ ス内容,そして課題について聞いた後編である。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


--- ワンセグデータ放送に関する編成方針は?

 ワンセグを開始する時の基本スタンスとして,緊急性の高い災害情報に加え,ニュース,天気情報は,放送の同報性を生かせるコンテンツであると考えて,データ放送で提供します。一方,エンタテインメント系のコンテンツは,通信を介した1次リンク・コンテンツと携帯向けのWebサイトである2次リンク・コンテンツとして提供しています。

 災害情報は,緊急時の情報提供に役立つコンテンツだと考えています。大雨などが発生した場合に,防災情報という項目がTOPメニューの一番上に追加されます。

--- どのようなワンセグデータ放送番組を提供していますか?

 番組連動コンテンツとしては,「ウドちゃんの旅してゴメン」と,深夜番組「モザイク」があります(表1)。

表1 メ~テレの番組連動データ放送一覧(2006年7月時点)

写真1 実験的な意味合いを持つ「モザイク」

 毎週土曜日朝9時30分からの「ウドちゃんの旅してゴメン」では,固定のデータ放送と共通で,番組で紹介したお店の情報提供や,「キーワードクイズ」によるプレゼント応募を行っています。キーワードクイズは,データ放送だけで出題する問題に回答させることで,連続視聴を促す取り組みです。

 毎月第1火曜日の深夜1時33分からは,イジリー岡田さんがMCを務める「モザイク」という番組を放送しています。出演者の女性の顔にモザイクがかかっていて,携帯サイトに行かないとモザイクなしの顔が見られない仕掛けをしています。30分番組ですが,その時間帯のアクセスが非常に高くなっており,有料会員も着実に獲得しています。(写真1)。モザイクは,携帯サイトとの実験的な連動番組として位置づけているため,データ放送から直接2次リンク・コンテンツの携帯サイトに遷移させています。

 非連動型コンテンツも工夫を凝らしています。提供するコンテンツは,「オススメ情報」「ニュース」「天気予報」「告知」「占い」「番組表」です(表2写真2)。

 ニュースは,全国ニュースやローカル・ニュースをデータ放送で提供しています。天気予報は,自分の居住地の郵便番号を入力すると,その場所の予報が表示される機能を盛り込みました。告知はいわゆる番組宣伝です。

 この中でも特徴的なのが番組表でしょう。ワンセグ携帯には,番組表を通信で取得して表示できるアプリケーションが別に付いています。しかしそれだと,番組表を見るときにはテレビ画面が消えてしまいます。メ~テレが提供している番組表は,今日と明日の番組表を1次リンク・コンテンツとして提供しています。これならばテレビを見ながら番組表も見られるのでとても便利だと思っています。

 今後,連動データ放送の番組を増やしていくかについては,検討中の段階です。テレビ番組とデータに連動性があって,データ放送の役割を明確にできるようなコンテンツであれば,利用してもらいやすいと考えています。例えば,プレゼントのある番組は,現時点では携帯サイトで対応しています。これを今後は,番組を見ながらワンセグのデータ放送を使って簡単にプレゼントに応募ができる仕掛けにするような方法です。視聴者も便利ですし,ワンセグと親和性が高いと思っています。

表2 メ~テレの非連動データ放送一覧(2006年7月時点)

写真2 非連動コンテンツが並ぶトップ画面

 双方向サービスについては,今のところ実施していません。2005年末に特番としてマルチチャンネル放送とクイズ番組を実施しました。携帯サイトからからクイズに参加させて,その結果を集計して発表しました。このような番組は,ワンセグのデータ放送を使った双方向サービスが向いていると思います。

 しかし,インタラクティブなサービスを行う場合には,個人情報の取り扱いですとか,データベース構築などの課題もありますし,番組としてもある程度の長さが必要です。一方,ワンセグ放送だと,長時間視聴してもらえるか,電池がもつのかという課題もあるので,必ずしもベストな解とは言えないかもしれません。

--- 今後,ワンセグ放送を使い,どのようなビジネスを展開しようと考えていますか?

 現状は「既存テレビの映像・音声が同じサイマル放送」(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:「サイマル放送(サイマルキャスト))」参照)という前提がため,ワンセグだけのビジネスを語るのは難しいですね。ただ,既存のテレビのビジネスモデルと併存して,データ放送で異なるビジネスを提供していけるのか,付加価値を与えられるのかなど検討していかなければならない課題があります。

 また,ワンセグ放送専用の編成を行った場合,ライツホルダーへの支払いが急に増えることになり,そうなると現実的にコストが増えるわけです。そうすると,ワンセグのビジネスでコストに見合った収入を確保する必要がでてきます。収支も考えつつ,ワンセグ放送専用編成に移行すべきか,サイマル放送のままで継続するのか,ローカル局においてのビジネスが成立を慎重に検討していきたいと考えています。

--- 今後の課題・問題点は何でしょうか?

 技術的には,端末の機能がキャリアごとに若干違っているため,各キャリア向けにコンテンツの作り方を変える必要があります。これは,収れんしていって欲しいと思っています。それと,放送が始まったばかりなので仕方がないですが,端末が普及していないのも問題です。今後は端末の種類の増加,そして端末台数の増大に期待します。

 現状は,今後ワンセグ端末が広まった場合にそれぞれのユーザーがどんな使い方をするかを想定して,コンテンツやサービスを実験していく段階だと思っています。

=== (前編を読む) ===