=== (前編を読む) ===

 在阪の放送局の中で1番多くのワンセグ向け番組連動データ放送を制作しているフジテレビ系列の関西テレビ。2006年4月1日からワンセグ放送を開始し,積極的にワンセグのデータ放送を推進している。関西テレビ メディア事業局 メディア業務推進部副部長の渡邊浩介氏に,ワンセグ放送への取り組みとサービス内容について聞いた後編である。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


--- 関西テレビのワンセグ放送に関する具体的な取り組みや編成方針を教えてください。

 番組連動型のデータ放送としては,先ほど(前編参照)もお話しましたとおり,1週間に全国ネット向けに2本,関西ローカルで2本の番組を作っています。このほかに非連動型のデータ放送のコンテンツも作成しています。

 番組連動サービスとしては全国ネット向けに「発掘あるある大事典II」と「ブスの瞳に恋してる」を制作し提供しています。関西ローカル番組としては「サタうま!」と「ドリーム競馬」があります(表1)。

表1 関西テレビの番組連動データ放送一覧(2006年6月時点)

 データ放送は本来なら歌番組と連動させたいのですが,今は本格的な音楽番組がありません。関西テレビでは,ローカルで毎日の放送終了前の深夜の5分間,ビデオクリップのプロモーション番組の「音エモン」という音楽番組を提供しています。私としては,これは番組連動サービスと言いたくはないのですが,音エモンに連動したデータ放送としてCDランキング情報を提供しています。そして,このCDランキングから携帯サイトへの誘導も行っています。

 非連動型のコンテンツとしては,ニュースや天気予報,そしてCDランキング,占いの情報を提供しています(表2)。

表2 関西テレビの非連動データ放送一覧(2006年6月時点)

 CDランキングや占いのコンテンツからは,2次リンクの携帯サイトに誘導し,携帯向けの有料サイトのアフィリエイト・ビジネスを行っています。具体的には,占いのコンテンツからは鏡リュウジさんの占いサイトに飛びます。データ放送の1次リンク・コンテンツ(「第2回 ワンセグ放送のサービス・イメージ」の図3参照)として,鏡さんのコンテンツを提供し,さらに自分にあった詳細情報を知りたい場合には2次リンク・コンテンツとして鏡リュウジさんの有料の携帯サイトに誘導しています。また毎週更新しているCDランキングからは,関西テレビの着メロ・サイトと新星堂のCD物販サイトにリンクしています。通常の携帯サイトからよりも,非連動コンテンツの方がクリック率が高い傾向が出ています。

 現時点では,双方向サービスやスポーツ番組での番組連動データ放送を行っていません。今後は野球やゴルフでは番組連動サービスを提供したいと思います。ただし,少ないスタッフで制作しなければならないので,スポーツ関連でリアルタイムにデータ放送と連動する場合には,効率化など考えるべき点も多いです。さらにワンセグだけに限るわけではありませんが,深夜番組で携帯電話との連動を意識した番組を作りたいと考えています。

--- ワンセグ放送に対する期待は?

写真1 関西テレビのワンセグ・データ放送TOP画面

 データ放送を作っている立場としては,なかなか使ってもらえない固定テレビ向けのデータ放送の現状があるのですが,ワンセグについては可能性があると思っています。そして,縦型でも横型(「第2回 ワンセグ放送のサービス・イメージ」の図1参照)でも「面白いね」と言ってもらえるような番組・コンテンツを作りたいです。

 FNS系列では,ワンセグ放送サービスでもシェアを30%に引き上げたいと思っています。ただし,その手法は通常の固定テレビ向けとは異なります。固定テレビで高視聴率を取るには,35~49歳の女性「F2層」およびF2と同世代の男性「M2層」以上の年齢層をターゲットにした番組を考えます。例えばドラマや時代劇,サスペンスものなどです。ただし,これは固定テレビを前提にした視聴率の取り方と言えるでしょう。

 現在,夕方の時間帯に固定テレビ向け番組として再放送ドラマを放送しています。しかし個人的には,ワンセグでは同じ番組では視聴率は取れないと思います。ワンセグで魅力のある番組としては,ラジオ的な番組が考えられます。昔の「夕焼けにゃんにゃん」のような公開生番組で,DJや出演者がトークを行っている間に,データ放送や携帯サイト側では関連コメントや質問,クイズなどの情報を提供するような形が向いているのではないでしょうか。

 現在は音声サイマル(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:「サイマル放送(サイマルキャスト))」参照)による放送が義務付けられており,実質的には独立編成番組やCMの差し替えなどのワンセグ独自サービスを提供できません。ワンセグ放送の端末が普及して認知度が上がり,さらにクライアントや権利者などとの調整が付いたなら,2008年の免許更新後にはワンセグ専用の番組編成が有効だと思っています。テレビ番組と連動型データ放送のコンテンツが連携することで,面白さが2倍にも3倍にもなるような番組を作っていきたいですね。

--- 今後,ワンセグ放送を使い,どのようなビジネスを展開しようと考えていますか?

 先ほどもお話しましたが,現在のワンセグ放送は,現状では音声サイマル放送なので,独自編成やCM差し替えなどが不可能です。しかし,2008年の免許更新時までに,ワンセグ放送が普及して固定型テレビ向けの現行テレビジョン放送と同等のメディアとして認められた場合には,例えば,ワンセグのデータ放送コンテンツにおける独自番組や独自CMの制作などのBtoBビジネスが有効だと考えております。

 そのためには,2008年に向けて,ワンセグ視聴者を増やし,ワンセグ放送を1つの大きなメディアとして認知されるまでに成長させたいと考えています。そうなれば,「データ放送部分に独自CMをつけましょう」とか,「ワンセグ向けテレビ番組を作りましょう」といった流れが自然に生まれると思います。

 BtoCについて,基本はやはり自社の有料携帯サイトへの誘導でしょう。それ以外に,物販へのトライアルはしたいと考えています。通常のテレビ番組のデータ放送で物販をやるのは難しいですが,通販番組をもっとエンターテイメント化してワンセグと組み合わせ,さらに連動させていけば,物販のビジネスに可能性が出てくるでしょう。

--- 今後の課題・問題点は何でしょうか?

 最大の課題は,ワンセグ放送を“縦”に見てもらうことです。つまりデータ放送も見てもらうことです。普及台数は悲観的には思っていません。端末の価格もそれなりに安くなってくると思っていますし,購入しやすい価格になってくれば確実に増えると思っています。

 6月5日に調査会社のマクロミルが発表したワンセグ視聴アンケート結果を見ると,端末を購入してくれた人は週3~4日,1日10分~20分は見てくれています。ワンセグ放送の良さは伝わっていると感じています。その上で,データ放送を一緒に見るリテラシーを高めていく必要があると思っています。

 近々の課題は地下街など受信エリアの拡大です。現在の地上デジタル放送の送信所と中継所のシステムは,固定受信をターゲットとしています。今後は,ワンセグ放送の携帯受信を含めた移動体受信向けのエリア対策として,ギャップフィラー(ワンセグの理解を深めるキーワード解説:「ギャップフィラー」参照)の設置が必要だと思っています。地下街や地下鉄におけるギャップフィラー設置については制度上,再配信免許の主体者や事業主体者はどうするのかといった課題があります。しかし,特に災害時などの対策として,携帯電話のワンセグ放送向けに災害情報の提供は重要です。電波が弱くて受信できなければ,いざというときに役に立ちません。

 関西テレビはキー局のフジテレビと同様に,地震情報,災害情報,台風情報も積極的に対応しています。災害時にはワンセグ・データ放送のTOP画面の一番上に情報を提示するような仕組みを用意しています。また送出側では,地震には自動的に災害情報を表示できるように対応しています。

 ただここにも問題はあって,地震や台風の物理的な強弱が機械的に測定できないケースや,局地的に大きな災害が予測される場合の対応です。広域にニュース速報として放送するレベルでない時に,どういった表示をするのか,どのエリアに放送するのかといった「きめ細かな被害状況の提示方法」に対する課題です。

 もう一つはユーザビリティと画面デザインです。開始した当初は,初めてのサービスですし,携帯電話でテレビを視聴する習慣がなかったので,使い方などを想像しながら画面デザインやユーザビリティを検討して作成しました。実際にさまざまな受信端末が発売され,社内でも使い始めてみると,使い勝手があまりよくないなと感じてきました。そこで,視聴者の視線に立って,使い勝手の良いデザインとユーザビリティについて,検討・改善していきたいと考えています。

=== (前編を読む) ===