ギャップフィラーとは,電波の届きにくい地域や場所の受信特性を改善する装置のこと。

 送信所からの電波が高い建物などにさえぎられると,その陰となる地域には電波が届きにくくなり,電波の弱い地域(隙間:ギャップ)が出来る。そのような“ギャップ”に向かって電波を再送信することによって,“すき間”を埋める装置がギャップフィラーである。

 特に,ワンセグ放送や衛星モバイル放送の特徴の一つである移動受信では,ギャップが多く存在するうえに,ケーブル伝送もできないことがあるため,ギャップフィラーが有力な方法とされている。



図 ギャップフィラー装置のしくみ
用途ごとに3種類の方式がある。

用途に合わせて3種類の方式を用意

 地上デジタル放送では,大都市の市街地,鉄道路線,地下鉄,地下道など,電波が届かない場所に対する対策として,ギャップフィラー装置の設置が進められている。特にデジタルラジオ放送やワンセグ放送などの携帯電話機と連携する通信と放送の融合サービスの普及,および緊急災害放送の重要性という2点の視点から,携帯電話と同じように地下街やトンネル内などの電波遮へい空間での対策が課題となっている。

 地上デジタル放送で使用するギャップフィラー装置には,地上デジタル放送にてビル影や山影などの難視聴地域を救済するための同一波中継増幅装置(中継方式)のほか,地下街や地下鉄などに使用する漏洩ケーブル方式や,小型アンテナ方式がある()。

衛星モバイル放送用にもある

 衛星モバイル放送でも,ギャップフィラーが使われる。衛星電波が届かない都市部や鉄道沿線などの場所に,再送信する装置として使われている。

 衛星モバイル放送用のギャップフィラーには,「広域ギャップフィラー」と「狭域ギャップフィラー」の2種類がある。広域ギャップフィラーは,携帯電話の基地局のように電波の遮断や遮へい個所をカバーするもので,ビルが密集している大都市の市街地などで利用する。衛星からKuバンド(12G~18GHz)のギャップフィラー波(TDM:Time Division Multiplexing,時分割多重)を受信し,衛星モバイル放送受信端末が受信できるSバンド(2G~4GHz)の放送波(CDM:Code Division Multiplexing,符号分割多重)に変換して再送信する。半径約1k~3kmの範囲をカバーする。

 一方の狭域ギャップフィラーは,広帯域ギャップフィラーではカバーできない場所(ビルの谷間,トンネル内,地下街など)を救うために使われる。再送信中継型装置とリピーター型装置の2種類がある。再送信中継型装置は広帯域ギャップフィラーと同じように衛星からKuバンドのギャップフィラー波をSバンドに変換し,増幅させて再送信する。リピーター型装置は広帯域ギャップフィラーや衛星から送信されたSバンド放送波を増幅して,同じSバンド放送波を再送信する。

 KuバンドからSバンドへ変換して再送信する再送信中継型ギャップフィラー装置のサービス範囲は,半径500m程度,リピーター型ギャップフィラー装置のサービス範囲は,半径1km程度をカバーする。