ウィルコムがPHSモジュール対応端末,スマートフォンと矢継ぎ早に端末を発表した(関連記事関連記事)。PHSの核部分をモジュール化することで端末の開発を促そうという同社の狙いは,これまでのところうまく動いているように見える。

 中でも注目の的はスマートフォン「W-ZERO3」だ。NTTドコモのFOMA M1000と対抗すると見られるこの端末,キーボードが付いている,画面サイズが640×480ドットとM1000の208×320ドットと比べてドット数で6倍も違うなど,ハードウエア面でM1000を凌駕している。付属するアプリケーションは似たりよったりだが,OSも大きな違いだ。M1000が搭載するのは英シンビアンのSymbian OS,携帯電話ではかなり多くのシェアを持つOSだ。一方,W-ZERO3が搭載するのは米マイクロソフトのWindows Mobile。PDAでもよく使われているOSだ。

 マイクロソフトのOSを使うメリットは単にOfficeなどマイクロソフト製アプリケーションとの親和性が高いことだけではない。アプリケーションの開発プラットフォームとして,多くのプログラマが慣れ親しんでいるパソコン用の開発環境が使えることが極めて重要だ。

 弊誌2005年10月1日号特集3「圏外をものともしない新・携帯ソリューション」で紹介したように,スマートフォンを使った携帯電話向けソリューションへの注目は急激に高まっている。その立役者がM1000であり,既に数十社がM1000を使ったソリューションを準備しつつある段階だ。

 しかし,開発者にとってみれば,Windows用の開発ツールやAPI(application programming interface)の知識が応用できるWindows Mobileの方が開発効率はずっと高い。特にカスタマイズなどが必要なソリューションにおいては,プログラマの層が広いかどうかはクリティカルな条件と言っても過言ではない。W-ZERO3の人気によっては他の携帯電話事業者も雪崩を打ってWindows Mobile採用に動くかもしれない。

 ここでふと思い出したのだが,もう7年くらい前に米国でWindows Mobileの前身であるWindows CEの組み込み用途担当マネージャにインタビューしたことがあった。彼はWindows CEの開発の容易さを強調していたのだが,いかんせんリアルタイムOSとしては能力に問題があった上,ライセンス料がかなり高かった。彼に「日本ではITRONというリアルタイムOSが普及していて無料で使えるからWindows CEは難しいと思う」と告げると「ITRONなんて初めて聞いた」とびっくりした様子。これでは普及はおぼつかないと思ったのだった。

 実際,その後組み込み用途としての普及はなかなか進まなかったのだが,ハードウエアの性能向上や携帯電話の機能向上によってOSに求められる要件も変わってきた。Windows Mobileも長い雌伏の時期を越えて,ここにきてようやく実を結びつつある。もっとも,W-ZERO3の場合,ウィルコムのPHSモジュールがあるため通信制御の部分はWindows Mobileの蚊帳の外。Windows Mobileの長所が発揮しやすい環境だとも言える。