システム部門主導で全社的なビッグデータ活用を目指し始めた企業は、データや人材、IT基盤をどう充実させて成果につなげていくかのビジョンを描く必要がある。ここでは本特集の締めくくりとして、ビッグデータ時代のデータ活用法の本命の一つである、行動履歴データを活用したCRMについて、システム部門が知っておくべき注意点を解説する。

 10年ほど前から普及してきた従来のCRM(顧客関係管理)におけるデータ活用の代表例は、「優良顧客を抽出してDMを打つ」ためのRFM分析であった。RFM分析では、R(recency:最新購買日)、F(frequency:累計購買回数)、M(monetary:累計購買金額)の三つの視点からクロス集計を実施して優良顧客を抽出する。

 RFM分析を用いて優良顧客にキャンペーン案内などのDMを送りつける手法は、多くの企業で普及している。ただし、顧客は複数企業から似たり寄ったりのイベントやキャンペーンの告知を受け取り、それが離反につながる可能性さえ疑われる状況になっている。

 かといってRFM分析のみで「休眠客」の活性化に応用しようとしても難しい。なぜならばRFM分析では、休眠客のセグメントを抽出することしかできないからだ。休眠客の興味を引く企画や提案はマーケティング担当者の属人的なセンスに頼るしかない。

ビッグデータで行動をモデル化

 ビッグデータ時代のCRMの在り方として、システム部門がまず意識しておくべきなのは行動履歴データの活用だ()。基本情報(年齢、性別、住所、家族構成)や購入履歴に、行動履歴をひも付けて扱うようになる。ソーシャルメディア上のデータなどもいずれ活用法が確立するかもしれないが、現時点で活用が始まっている行動履歴データは「Web上の行動履歴」「メールに記載されたURLのクリックの有無」などである。

表●ビッグデータによって顧客へのアプローチがどう進化するか
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 こうしたデータを複数組み合わせることで、関心を抱いて購買に至るまでの行動パターンを抽出(モデリング)する。データサイエンティスト的に言い換えると「多くの種類のデータの中から販促成功(来店、購入など)との相関性が高い変数(ある商品の購買履歴や行動履歴の有無など)を相関度に応じて重みづけし、販促成功率のスコアを算出する予測式を作る」作業を行っていく。

 具体例を挙げよう。美白化粧水の購入を働きかけるHTML形式の電子メールを、顧客に送信したとする。この販促活動の場合、「メールを開封したかどうか」「化粧水の商品説明へのリンクをクリックしたかどうか」「商品説明を読んだ後に購入したか(しなかったか)」などの行動履歴を取得できる()。

図●顧客の行動パターン分析に基づいたプロモーション施策の例(化粧品通販)
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 この電子メールの販促がうまくいかなかった顧客に対しても、行動履歴に基づいて引き続き仮説を立てて施策を実行できる。例えば「『美白』ではなく『保湿』『アンチエイジング』など違うタイトルの電子メールを再度送る」「同じ『美白』でも化粧水ではなくクリームの商品ページに誘導する電子メールを送る」「美白化粧水について期間限定で割安感のあるキャンペーンを実施する」などだ。

 当初は、ある限定的な顧客(特定地域に絞り込むなど)でこうした各種施策を勘と経験から試行錯誤して、行動履歴データを蓄積する。そして行動パターンを抽出する。つまり「過去○カ月以内に○○の無料サンプルを請求歴があって、○○の電子メールを開封してかつ○○のリンクをクリックした顧客に、○○のタイトルで○○のキャンペーンの電子メールを送れば平均成功は○%が期待できる」などのパターンだ。

 こうしたモデリングによって、個々の見込み客や休眠状態の客に対するプロモーション成功率を推定し、施策が有効な客を抽出したり、アプローチのタイミング、提案が有効な商品までも、最適化する。このようなモデリング化は、「行動予測」とも呼ばれている。

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