全社的なビッグデータ活用に乗り出したパナソニックは、その初期段階で、システム部門主導の活用体制作りに取り組む計画を策定した。活用推進に不可欠な三つのグループの役割と、個々のグループにおける人材像を定義したのだ(図4)。
三つのグループとは、「分析企画」「分析推進」「データ管理」である。「分析企画」グループはその名の通り、最先端の分析スキルを持つデータサイエンティストが主体となる集団だ。留学先の米国で育成する2人を筆頭に、2015年までに50人を育成する。
「分析推進」グループは利用部門での分析作業を支援する。ITツールの操作を教えるなどのサポートができる人材を配置する。
「データ管理」グループは、複数部門のデータをまとめて加工しやすくしたり、SNSへの書き込みに代表される非構造化データを蓄積・加工したりする役割だ。データベース設計などに詳しい人材をここに置く。
こうした人材は、利用部門が個々に育成したり確保したりするよりも、システム部門内に集約する方が、効率的に育成でき、ノウハウも蓄積しやすい。三つのグループが近くにいることで連携もしやすくなる。こうしてデータ分析をビジネス上の大きな成果に結びつけていく。
全社でコスト最適化を図る存在に
ビッグデータ活用の取り組みを始めるのに当たって、パナソニックのようにシステム部門が起点になるのか、それとも利用部門が起点になるのか、実態は様々だ。利用部門が中心になっているケースも実際には多い。
しかし、全社を挙げてビッグデータを活用していくためには、利用部門がバラバラに推進するのではなく、システム部門が早い段階で中心的な役割を担うべきだ。
その理由について、ニューヨーク市保健衛生局などで統計ディレクターを務めたこともある、アクセンチュアの工藤卓哉アナリティクスインテリジェンスグループ統括シニア・プリンシパルは、次のように指摘する。「コストを抑えながら成果を出し続けるには、ITやデータ管理に関する知見を備えたシステム部門の主体的な関与が不可欠だ」。
SAS Institute Japanの北川裕康マーケティング&ビジネス推進本部長もこう語る。「最初は利用部門が独自に分析ツールを活用し始めた米国企業でも、次の段階ではコストの最適化や全社連携のために、システム部門が中心的に活動するケースが増えている」。
高度なデータ分析には技術的な裏付けが不可欠であることも、システム部門主導の考え方を後押しする。
例えば、WebやSNS上の顧客の行動をモデル化してマーケティングに活用しようとすれば、行動履歴データをどうリアルタイムに蓄積し、構造化データに変換し、顧客のプロフィール情報とひも付けてデータベースのテーブルに格納するか、といった検討が必要になる。データサイエンティストは、データ活用に積極的に取り組むシステム部門の中にあってこそ、ビッグデータをより高度に活用できるようになるのだ。
言うまでもないが、システム部門が主体になるといっても、データ分析業務の全てを担うべきというわけではない。パナソニックが「分析推進」グループの設置を予定していることからも分かるように、全社の視点に立って利用部門によるデータ分析をアドバイスしたり支援したりすることもシステム部門の重要な役割になる。