米エクイニクス(Equinix)は、38都市99カ所に展開するデータセンター事業者である。ユーザー企業や通信事業者に向けて、コロケーションサービスやネットワーク接続サービスを提供する。2011年6月には、日本国内の金融サービス事業者が多い東京都江東区に、国内3番目のデータセンターを開設した。ITproは、同社に、データセンター事業の動向を聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


データセンター事業者としてのエクイニクスの特徴は何か。

米エクイニクスでグローバル金融サービス部門のジェネラルマネージャを務めるジョン・ナフ氏(写真右)とエクイニクス・ジャパン代表取締役の古田敬氏(写真左)
米エクイニクスでグローバル金融サービス部門のジェネラルマネージャを務めるジョン・ナフ氏(写真右)とエクイニクス・ジャパン代表取締役の古田敬氏(写真左)

 特徴は、ネットワークリッチであること。全世界で690の通信事業者(閉域網やインターネット接続網)が、エクイニクスのデータセンターに接続ポイントを設置している。東京は60~70社、シンガポールは100社を超える。ユーザー企業は、エクイニクスのデータセンターに自社システムを設置するだけで、これらの通信網を利用できる。

 エクイニクスでは、この10年間、ネットワーク網を利用しやすい環境、世界各地に対して接続できるインフラを整備してきた。仮に、こうしたインフラをユーザー企業が自前で整備すると(ユーザー企業のデータセンターにネットワークを引き込むと)、非常に非効率だ。自社のシステムをエクイニクスのデータセンターに持ち込む方が効果的だ。

 エクイニクスでは、過去3年間だけで、30億米ドルを投資してきた。新規のデータセンターを開設したり、既存のデータセンターを買収したりしてきた。現在では、5大陸の38都市に、99カ所のデータセンター設備を持っている。これを利用している顧客の数は、4000を超える。

 データセンター専業の事業者で、エクイニクスと同規模のネットワーク網設備を持つ会社は、ほかには無い。類似のデータセンター事業者には、例えば英グローバル・スイッチなどがあるが、こうしたデータセンター事業者は、規模やカバー範囲の面で、エクイニクスとは比較にならない。特に、東京にデータセンターを置いている事業者は少ない。

どのような顧客が利用しているのか。

 最も成長が著しい分野は、金融サービス業界だ。エクイニクスでも、最も力を入れている分野だ。金融には電子取引という大きな潮流がある。もう10年ほど前になるが、金融情報交換(FIX)プロトコルが導入されたことで、電子取引が一般化した。これ以降、多くの企業が、複数の国で簡単に金融取引を実行できるようになった。

 金融業界にとって、電子取引は重要だ。まず、取引にかかるコストが減る。場合によっては、90%以上のコスト削減になる。次に、リスク管理もできるようになる。大手の銀行や証券会社にとって、どこで取引が行われているのか、資産がどれだけあるのか、といった情報をリアルタイムに把握できる意味は大きい。

 つまり、金融サービス事業を営むためには、エクイニクスのようなリッチなネットワーク網が必要になっているということだ。金融サービス事業者は、グローバルな企業であり、世界各地の金融市場に対して接続性が確保されている必要があるからだ。

 実際、エクイニクスを利用している金融サービス事業者は、現時点において、約700社、1000カ所に及ぶ。この内訳は、証券取引所が80社、資産運用/証券会社が500社、テクノロジーサービスプロバイダが200社近く、といった具合だ。

 確かに、金融サービス事業は、一般の企業から見たら特定用途だ。しかし、非常に大きな市場であり、急速に伸びている。エクイニクスにおける金融サービス分野の売上は、過去5年間で5倍に伸びている。

一般企業から見てエクイニクスを利用するメリットは何か。

 エンタープライズ(一般企業)分野の顧客も多い。事実、エクイニクスの主要5分野は、金融サービス事業者、クラウド事業者、エンタープライズ、通信事業者、コンテンツ事業者だ。最も伸びているのは金融分野で、次がクラウドだが、エンタープライズから見てもエクイニクスは有益なデータセンターだ。

 そもそも、ユーザー企業が自社でデータセンターを運営する場合と比べると、外部のデータセンターを利用することでメリットが生まれる。まず、データセンター設備への投資が要らなくなり、運用費に代わる。また、自前で回線を引き込むよりも、ネットワーク接続のためのコストが下がる。さらに、きちんとメンテナンスがされるため、可用性が高まる。

 外部のデータセンターを利用する利点の一例が、日本の震災だ。この時、日本のエクイニクス・ジャパンは、発電機に必要な重油を米国から送ってもらう手配をしている。こうしたこと(重油の手配)は、ユーザー企業のIT部門には難しいことだと思う。専業のデータセンター事業者だから、こうした運用ができる。

 次に、他社のデータセンターと比べたエクイニクスのメリットは、金融サービスにおけるメリットと同様だが、ネットワーク(通信事業者)の選択肢が広がることだ。これにより、システムの可用性や俊敏性を高めることができる。

 例えば、海底ケーブルが切断されてしまった場合、エクイニクスであれば、別のルートに切り替えることで接続を維持できる。各社のネットワークとの接続ポイントを多数持っているため、この中から最適なものを選んで、切り替えて利用できる。

 急激に業務が拡大した場合も、数日といった短期間で、新規の通信事業者のネットワークの利用を開始できる。一方、ユーザー企業が自社のデータセンターに対して新たに回線を引き込む場合は、「2カ月かかります」と言われるかもしれない。

利用料金はどのくらいか。対象となる顧客の規模や層は。

 エクイニクスは“プレミアムデータセンター”であり、データセンター市場の中では、比較的高価な料金体系に当たる。このため、企業の規模や属性を問うことなくすべての企業に適しているか、と問われれば、それは違うということになる。

 主な顧客は、ネットワークリッチであることが重要な要件となる、グローバル企業やサービス事業者などだ。こうした企業は、エクイニクスを利用することで間違いなくコストが減る。

 なお、ネットワークリッチであることは、コスト高の要因とはならない。なぜなら、通信事業者は、自社のネットワークにトラフィックを引き入れるために、エクイニクスにお金を払って接続設備を置いてくれている立場だからだ。接続している通信事業者の数が多いことは、ユーザー企業から見ると、単純にメリットだけがあることになる。