第1回では、業務処理システムの構築にERPパッケージを利用することで、競争力が阻害される可能性があるという話をしました。それが典型的に生じやすい業務が販売管理であり、典型的な業種が卸売業です。

 日本の卸売業者、特に特定メーカーの販売代理店を主業にしている専門商社という企業形態は、欧米では一般的ではありません。そのため、欧米製のERPパッケージの販売管理モジュールの基本機能では、日本の卸売業者の業務処理をカバーできません。にもかかわらず、無理に欧米製のERPパッケージを導入しようとして混乱している企業がいます。

 欧米では、商流と物流は明確に区別されて運営されるのが普通です。商流はREP(営業代行人)に代表されるプロの営業が行い、物流はメーカー自らか、購買代行を担う中間業者が担っています。ところが、日本の卸売業者の場合はメーカーの販売・物流代行業者としての役割を担っているケースが多く、大抵の卸売業者が商流と物流の業務を兼務しています。

 さらに言えば、日本の販売代理店の存在意義は、メーカーが直接対応できない取引先からの多種多様な物流要求にこまめに対応することにあるという面も強くあります。そうした物流要求の代表に、即日納入、小分け納入、VMI(Vendor Managed Inventory)対応、かんばん対応、流通加工対応などがあります。欧米企業ではこうした多種多様な物流対応は、3PL(サードパーティロジスティクス)業者や購買代行卸売業者が行うことが多いのです。

オフコンが日本でもてはやされた理由とは

 一時期、日本でも卸売業者不要論が話題になり、メーカーと高度な物流(3PL)業者がいればビジネスは回るような話が出たことがあります。ところが、ふたを開けてみると多くの業界で販売代理店が物流主体を担わないと、多種多様な業務が回らないことがわかってきました。しかも大手メーカーがERPシステムによる標準業務化を進めれば進めるほど、販売代理店がいないと対応できないといった事態になることも多く、かえって卸売業者の重要性が高まってきます。

 こうした環境下にある卸売業者のシステム化はどうあるべきでしょうか。実は日本以外ではほとんど普及していなかったオフコンが日本でもてはやされた理由がここにあります。

 今から30年前、当時の卸売業者は競ってオフコンを導入しました。卸売業者は受発注処理の件数が多いこともあり、コンピュータ利用には積極的でした。オフコンの簡易言語などを使うと安価に独自システムを構築できましたので、取引先からの要求に対応するために多くの卸売業者がオフコンを導入しました。今も当時導入したオフコンシステムをそのまま使っている企業がかなり残っています。

 ところが、企業情報システムのハード基盤がオフコンからオープンシステムに変わるに従い、簡易言語を使って安くシステムを作るというアプローチが難しくなってきました。下手にスクラッチ開発(個別開発)を頼むと億単位の開発費が必要になることもあります。これでは、少ないマージンで必死に商売している卸売業者が独自システムを構築することはできません。

 そこで、ERPパッケージや販売物流パッケージを利用してシステム構築するという選択肢が出てくるわけですが、パッケージの業務処理に合わせたシステムでは、取引先の要求に対応できるかどうかわかりません。特に欧米製のERPパッケージを使おうとすると、社内の業務処理がERPの業務処理ルールに縛られてしまい、ビジネスが回っていかなくなる恐れもあります。

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