日本のERP導入において、高額なカスタマイズ費用が横行した背景には、今までの回で紹介したようなユーザー企業側の問題以外に、日本のIT業界構造に起因した問題もあります。今回はその問題について考えてみます。

ベンダーの利益のために仕事をするERPコンサルタント

 第1回で、欧米のプロ経営者の話をしましたが、もうひとつ忘れてはならないことがあります。それは欧米企業には、日本のIT業界にはいない「ERP導入請負人」という専門家がいることです。

 こう書くと、「日本にもSIベンダーやシステムコンサルティング会社にプロのERP導入コンサルタントがいるのではないか」と思われる方がいるかもしれません。しかし彼らとERP導入請負人は置かれている立場が根本から違います。

 欧米のERP導入請負人はユーザー企業に直接雇われ、導入リーダーとしてシステム構築を主導しますが、日本のERPコンサルタントはSIベンダーやシステムコンサルティング会社の社員です。

 筆者は、この違いこそが、多くの日本企業でERP導入が失敗した最大の原因ではないかと思っています。両者の最大の違いは、誰の利益のために仕事をしているかにあります。

 ERP導入請負人はユーザー企業の利益のためですが、ERPコンサルタントは違います。あくまでも所属するSIベンダーやシステムコンサル会社の利益のためです。

パッケージはSIベンダーのビジネスモデルと相容れない

 昔のシステム開発ではベンダーはそんなに儲ける必要はありませんでした。システム開発で利益を得なくても、ハード販売で十分な利益を得ることができました。そのため、ベンダーのSEの中にもユーザーサイドに立ったシステム開発を行う人が多くいました。今でも「ベンダーSEは採算度外視でも対応してくれる」と信じている情報システム部長もいるようです。

 しかし、ハード販売からソフト/サービス主体のビジネスに変わってしまった現在は、そうしたベンダーSEは、あまり見あたらなくなりました。これはベンダーの経営者に成り代わって自社のビジネスを考えてみればよくわかります。そんな悠長なことをしている社員ばかりだと、SIベンダーは倒産してしまうからです。

 SIベンダーは昔のようにハード商売やERPパッケージの販売マージンだけで儲けることはできません。彼らが生きていくためには、コンサル費用やカスタマイズ費用、ソフト開発費用で儲けるしか手はありません。

 このため、できるだけ複雑なシステムに仕立てあげて儲けようとするベンダーがいたとしても、不思議ではありません。例えば、ERPパッケージの導入時にはフィット&ギャップ分析を行ってギャップをなくす必要がありますが、こうしたベンダーの手にかかるとギャップは小さくなるどころか膨らんでしまうこともありえます。

 要するにパッケージビジネスは、本来、SIベンダーのビジネスモデルとは相容れないビジネスモデルなのです。普通にERPパッケージ導入を支援しただけでは儲からないからです。

 カスタマイズで、何十億円もSIベンダーに支払うのは日本企業ぐらいではないでしょうか。こうしたことが起きないように欧米企業ではERPシステムを構築する際には企業を渡り歩くERP導入請負人を雇います。彼らの報酬は工数対価ではなく、給与で支払われますので、雇い主の企業に利益貢献しなければなりません。追加開発費用の山を築くようではすぐにクビになってしまいます。

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