ERPパッケージの業務処理機能の中でも、最も利用しにくいといわれるのが生産管理モジュールです。特に受注生産型のメーカーでは、MRPIIをベースにしたERPの生産管理モジュールは使えない、という話が半ば常識化しています。
第1回で紹介したように、ERPはMRPII(製造資源管理)が発展してできたシステムです。このため、多くのERPパッケージの生産管理モジュールはMRPIIをベースにしています。それだけに、一般的な生産管理パッケージに比べても、かなり高度な生産管理ロジックが搭載されています。
それでも日本のメーカーは、MRPIIをベースにしたERPの生産管理モジュールを、そのまま使うことはできませんでした。多額なカスタマイズ費用を投じて無理やり生産管理システムを構築した企業もいますが、多くのメーカーが利用をギブアップしました。
ところが、生産管理モジュールを使わないと本来のERPシステムは構築できません。財務会計システムだけであればもっと安い会計パッケージでも十分です。たかが財務会計システムを導入するのになぜ何十億円も費用をかける必要があるのか。生産管理モジュールを使うことのできなかったERPパッケージユーザーには、この矛盾がずっとつきまとっています。
日本のメーカーには、精度の高い業務計画を作るという風土がない
それではなぜ、MRPIIをベースにしたERPの生産管理モジュールは、日本のメーカーでは使えなかったのでしょうか。
MRPIIは図のような体系でできあがっています。

MRPIIの中心はMPS(基準生産計画)と呼ばれる個別製品(独立需要品目)をいつどれだけの数量を作るかという業務計画です。さらにMPSの精度をS&OP(販売操業計画)と呼ばれる営業部門と製造部門で共同して作る上位の業務計画が支えています。
すなわち、MRPIIとは、S&OPとMPSという2つの業務計画が作った計画や手配方針に基づいて、製造資源を効率的に運用して生産する仕組みといえます。そのため、MRPIIをベースにしたERPの生産管理モジュールを動かすためには、MPSもしくはS&OPによる数量計画がしっかりと立てられていなければなりません。
ところが、取引先のわがままに対応することを第一義としてきた日本のメーカーには、MPSやS&OPといった精度の高い業務計画を作るという風土が育っていません。これではMRPIIは機能しません。
例えば、日本に多い下請け型部品メーカーの多くは、発注元の内示情報に基づいて受注生産するのが一般的ですので、製品の生産計画を自ら作るという発想は必要ありませんでした。また、独立色の強い産業装置の製造業であっても取引先からの受注生産で製造している企業が多く、受注してからはじめて生産スケジュールを作るというのが一般的です。しかも、これらの製品では発注元の要求納期がころころ変わることも多く、いくら最初に精緻な計画を立案してもほとんど役に立ちませんでした。
これらの業態では自社の製造資源の効率的な運用のための生産計画よりも、取引先への納期管理をどう行うかの方が大事です。生産管理といえば納期や仕様変更への対応をどうするかのほうが重視されます。これはMRPIIの考え方とは異なるので、こうした企業がERPパッケージの生産管理モジュール(MRPII)を導入しようとしても、うまくいくはずがありません。
このことが、日本のメーカーが生産管理モジュールを活用できない原因のひとつです。ERPベンダーの多くは、日本のメーカーの実態に合わせて生産管理モジュールを改造していますが、MRPIIの基本を崩すと理論から外れたわけが分からないシステムになってしまう恐れもあります。