大竹 伸一(おおたけ・しんいち)氏
写真:太田 未来子

 2期連続、しかも2010年度は大幅な増益となったNTT西日本。「クラウド」「地域密着」「ひかりWi-Fi」をキーワードに掲げ、東日本大震災によってBCP(事業継続計画)見直しを始めた企業のニーズに応えると同時に、コンシューマーの“固定離れ” 対策に注力する。今後の戦略と展望を、大竹社長に聞いた。

阪神・淡路大震災を現場で経験したと聞いている。その経験から、東日本大震災をどう見ているか。

 あの経験は、東日本大震災の応急復旧の段階でとても役立った。まず電源にダメージを受けているだろうと想像がついたから、地震発生翌日の12日にはNTT東日本からの要請を待たずに移動電源車を出発させた。

 応援の人員を派遣するに当たっては、すぐに3~4日分の水や食料、寝袋などを持参できるよう手配した。応援部隊の行き先も、指揮系統確保を考えてエリア別に分けられるだろうと推測できたから、連絡を待ちながら、とにかく東日本へと進むようにした。

 ただ東日本大震災と阪神・淡路とでは、量的にも質的にもかなり違いがある。今後の復興段階では、経験が十分に生きてくるかどうかは分からない。

違いというと?

 まず量的な観点では、被害の規模がケタ違いだ。確かに建造物などが大きな被害を受けたし、被災者も大勢出た。ただ地震は内陸での直下型で、被災地の範囲は限られていた。

 東日本大震災の被害規模はそれとは比較にならない。地震に加え、津波による被害が広範囲に及んだ。そして広い範囲での停電。まさか日本でこれほどの電力危機に見舞われるとは、誰も思わなかっただろう。

 質的な面で言うと、阪神・淡路の被災地はどちかというと「消費地」だった。今回の主な被災地である東北地方は、農家や漁港があったり、製造業の工場があったりという「生産地」。このため、その後の日本各地、生活の様々な面に影響が及んでいる。復興あるいは街づくりという観点では、新たに考えるべきことがたくさんありそうだ。

当時とは、通信技術や通信サービスも格段に違っているが、その効果についてはどうか。

 一言でまとめると、インターネットに代表される分散型のネットワークが発達、普及していることが、震災復旧には役立った。これで、分散型ネットワークが災害に強いことがハッキリした。それに無線だ。おかげで、多くの人達が震災直後から、いろいろな手段で連絡をとれた。ただ我々のことで言えば、電源の確保の仕方は、従来通りでは不十分。見直しの余地がある。

ほかに、通信事業者として今後考えるべきことは。

大竹 伸一(おおたけ・しんいち)氏
写真:太田 未来子

 例えば無線の配備の仕方はもう少し改善できそうだ。行政機関には、衛星携帯電話を配備してあったが、それが津波で流され、結局使えないケースが多くあった。もっと広範囲に配備するなど、扱える人を増やすことを考えるべきだろう。

 緊急連絡の仕組みについても検討が必要だ。ソーシャルメディアなどが役立ったが、それは個々のユーザーの知恵によるものだった。通信事業者としても、ソーシャルメディアなどとうまく連携するとか、ユーザーの知恵に倣って工夫できる点はいろいろある。

 ネットワークインフラに関しては通信方式の多様化が挙げられる。緊急時に、固定と無線の事業者をまたがってリソースを確保できる体制を、きちんと整えたほうがいい。

東日本大震災の後、何か変化はあったか。

 多くの企業ユーザーがBCP(事業継続計画)を考え始めたことが最も大きな変化だろう。状況はがらっと変わった。東日本大震災の後は、「従来使っていたデータセンターとは地理的に離れたデータセンターを追加で使いたい」「今使っているデータセンターまでの経路を多ルート化したい」といった要望が数多く寄せられるようになった。

そのニーズに、NTT西日本としてどう応えるのか。

 クラウドサービスを核に対応していく。ちょうど3月に、NTTスマートコネクトと連携して「Bizひかりクラウド」を始めた。そのメニューとしてBCP向けのサービスを提供していく。

NTT西日本 代表取締役社長
大竹 伸一(おおたけ・しんいち)氏
1948年生まれ。愛知県出身。京都大学工学部電気工学科卒。1971年、日本電信電話公社(現NTT)入社。2000年、NTT理事 第二部門長。2002年6月、NTTエムイー東京社長に就任。2004年6月、NTT西日本常務取締役ソリューション営業本部長。その後、戦略プロジェクト推進本部長を経て、2008年6月、代表取締役社長(現職)。

(聞き手は、河井 保博=日経コミュニケーション,取材日:2011年5月19日)