東日本大震災で多大な被害を受けたNTT東日本。サービスの回復に向けた応急措置の展開を終え、今後は本格的な復旧・復興の段階に入る。ただし、中継伝送路の新設、補強などのための大規模な工事、輻輳に強いネットワーク作りなど、まだまだ課題は多い。今後についての思いを江部社長に聞いた。
震災の応急復旧が一段落した。振り返ってみて、どう感じているか。
阪神・淡路大震災をはじめとする過去の経験を踏まえて打ってきた対策は、効果があったと思っている。例えば局舎ビルの耐震策。少なくとも地震による直接の被害でビルの機能が損なわれたケースは、一つもなかった。
伝送路の2ルート化、ループ化も奏功した。結果的には、津波によってビルごと流されるなど大きな被害があったものの、地震対策を講じていなかったら被害ははるかに大きかっただろう。
通信ビルの機能は4月中におおむね回復できたし、中継路もつながっている。この点では、できる限りのことはやれたと思っている。
今後の本格復旧はどうしていくのか。資料などにある「中継伝送路の2ルート化」などは、既に取り組んでいたと思うが。
例えば既に2ルートになっていた部分でも、震災で1ルートが寸断され、今は1ルートだけでサービスを提供しているところが残っている。
さらに、2ルートに戻すといっても単純な方法では済まないケースがある。一つの例が橋。被害を受けた地域では20カ所以上も橋が落ちた。応急的にはつないだが、今後のことを考えると、どうやったら補強できるのかを考えなければならない。例えば河川管理者の許可が必要になるが、津波の影響を受けにくいように川の下を通す方法がその一つ。そういう形で、さらに信頼性を高めることを考えていきたい。
ほかの中継路も、できれば2ルートより3ルートのほうがいい。現実には全部3ルートというわけにはいかないから、例えば2ルートの途中でラダー(はしご)状になるように橋渡しの経路を設けるとか、そういう方法を考える。
問題は、福島の原子力発電所の近くのエリアだ。あそこには富岡という中枢の局がある。太平洋側を通って北海道までつながる非常に重要なルートだが、当分は入れない可能性がある。そうなると、富岡を迂回する中継伝送路を作る必要が出てくる。
津波でビルそのものが行方不明になってしまったところも4カ所ほどある。暫定的に置いた簡易設備で運用しているが、いつまでもそのままというわけにはいかない。これから、大規模な工事が必要になる。
5月に東北復興推進室を組織して、今後の大規模な工事に向けた設計を一元的に進める体制を整えた。何十人ものスタッフが1カ所に集まって、現地を見ながら今、設計を始めている。
被災地で、アクセスがなくなってしまった場所では、メタル回線をもう一度敷設し直すのか。電話網のマイグレーションの一環として、今後は光だけにしていくという道もありそうだ。
実際のところ、被災地にメタル回線を引き直すのは難しい。例えば仮設住宅があるエリアまでの経路は寸断されていて、なかなかメタルを持っていくことができない。それでも光なら行けるという場所があって、そういうケースでは、特例的に光で電話サービスを受けていただくところがある。
ただ、今までISDNを使っていたユーザーに、やっぱりISDNがいいと言われたらどうするか。それはダメですとは、なかなか言えない。
料金面で言えば、データ通信量が少なければ月額2940円で済むフレッツ 光ライトもある。ただ「月額1000円台の基本料だけで」というユーザーのニーズには答えられない。
アプリケーション面でも、例えばセコムのサービスのように、メタル回線用のものがある。それを代替するサービスを、光回線で、しかも同程度の料金で提供できるかどうか。そもそも端末を変更しなければならないケースがあるなど、「明日から」と急に言われてもそれは困るというユーザーの声は多くある。だからじっくり時間をかけて取り組んでいかざるを得ない。
江部 努(えべ・つとむ)氏
(聞き手は、河井 保博=日経コミュニケーション,取材日:2011年6月9日)