ストレージ分野で、従来のスケールアップ型(筐体内でディスク容量を拡張する方式)からスケールアウト型(ディスクだけでなくコントローラーも増設して拡張する方式)への世代交代が起こるという見方が出ている。ガートナー ジャパンでストレージ分野を担当する鈴木雅喜ITインフラストラクチャ リサーチディレクターに動向を聞いた。

(聞き手は井上 健太郎=ITpro

写真●ガートナー ジャパンの鈴木雅喜ITインフラストラクチャ リサーチディレクター
写真●ガートナー ジャパンの鈴木雅喜ITインフラストラクチャ リサーチディレクター

スケールアウト型ストレージの特徴をどう分析しているか。

 コントローラーなどが分散されたアーキテクチャーなので故障に強い。ディスクを増やすのに応じてコントローラーを増やせるので、ノード間通信にボトルネックが発生しない限りは性能も有利だ。

 無停止でディスクを増やせる点については、スケールアップ型でも仮想化技術を使ってそのようなことができる製品が増えており、差別化要素とはならないかもしれない。

 スケールアウト型が特に優位に立てる用途はスループット面の要求が厳しいメディア配信関連だろう。

 一方、製造や流通など一般的な業種向けの市場では、スケールアウト型でなくてもほとんどのケースで性能は足りるはずだ。機器の更新に応じてじわじわとスケールアップ型の市場を浸食していくのではないか。

スケールアウト型の課題は何か。

 一般業種でスケールアウト型がシェアを伸ばすには、ミッションクリティカルな用途に対する技術サポート体制を確立できるかどうかが鍵になる。ファームウエアにバグが見つかったときにすぐ直せるかどうかなどだ。

 ハイエンドのサポートを求める金融系やEC系の企業は、ベンダーが特別なサポートを約束しない限り、現状ではスケールアウト型導入をためらうのではないか。当面はスケールアウト型はローエンドもしくはミッドレンジと呼ばれるクラスでの販売が主になると思う。

スケールアウト型で注目しているベンダーはどこか。

 米IBMが買収したイスラエルのXIVや、米HPが買収した米3PARと米LeftHand Networks、米Dellが買収した米EqualLogicなどだ。特にXIVや3PARは、それぞれ大手ベンダーに買収されたことで、信用力が増して売れ始めた好例といえる。

あるSIベンダーからは、スケールアウト型製品の中には、ランダムアクセスで細かいデータ更新を行うデータベース用途に向いていないものがあるという意見を聞いた。

 実証的なデータがまだ流通しておらず、そうした優劣はまだはっきりしていない。そもそもベンチマーク結果を公平に比較するのは非常に難しいものだ。

 はっきりしているのは、実際にはほとんどの商談では、性能よりも、耐障害性や可用性が重視されるだろうということだ。

国産大手ベンダーのスケールアウト型への取り組みをどう見ているか。

 富士通と日立製作所はスケールアウト型製品に消極的に見えるが、NECにはスケールアウト型のSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)製品、「iStorage D8」がある。プロモーションに力を入れ、サポート対象の接続先を広げていれば、もっと売れているはずの製品だと思う。

スケールアウト型の他には、どんなストレージ技術に注目しているか。

 シンプロビジョニング(関連記事:「シン・プロビジョニング」というストレージの新常識 )、データ重複排除技術、SSD混在型ストレージ(階層型ストレージ)、QoS(サービス品質)などだ。

 技術以外で気になることがある。ベンダーが差別化のメッセージを強調するあまり、この分野の話は複雑になりすぎている。「ローエンド」「ミッドレンジ」「ハイエンド」の定義はどうなのかすら、明快にベンダーが説明できずユーザーを混乱させているのは良くないことだ。

ストレージ分野で今後、新興勢力が台頭するチャンスはあるか。

 スケールアウト型については、大手によるベンチャーの買収が一段落した状態だ。具体的に思い浮かぶ社名は無いが、これからクラウド関連で新興ベンダーが出てくる可能性がある。