企業のマーケティング活動に“デジタル”の要素が深く入り込むことで、マーケティング業務をインハウス化する動きが加速していた時期があった。筆者は約3年前にこんな記事を書いている(参考記事:「米企業のマーケティング内製化が問う、広告代理店の存在意義」)。

 この背景には「デジタルマーケティングがもたらす膨大なデータを、企業の内部で管理・分析したいというニーズが強まった」こと、そして「ツールやインフラの進化によって、デジタルマーケティングに関わる業務の省力化・効率化が可能になった」ことがあった。

 ところがここへ来て、デジタルマーケティング業務が3年前とは逆に、インハウスからエージェンシーモデルに向かって急激にシフトしている動きが見えてきた。2016年5月末にSoDA(Society of Digital Agencies)という、米国のデジタルエージェンシーを中心とした業界団体が発表したリポートがこんな結果を明らかにした。「『デジタルマーケティング業務にエージェンシーを使っていない』と回答した企業は、2015年の27%に対して2016年は13%と大きく下がっていた」――。

 リポートは、複数のデジタルエージェンシーを使うケースが2016年に入ってから急増していることにも言及している。「2社のデジタルエージェンシーを使っている」と回答した企業は、2015年の15%から31%へとほぼ2倍に、「3社」と回答した企業も14%から21%へと、いずれも大きく数字を伸ばしている。これまでインハウスでこなしていた業務を、複数のデジタルエージェンシーに振り分けているものと推測できる。

 では、どういった業務がデジタルエージェンシーに対して依頼されているのだろう。広告主がデジタルエージェンシーに求めている要素を多い順に並べてみたところ、「マーケティング・リサーチ業務」「革新的な製品やサービス」「技術力」となっていた。一方で「戦略面でのリーダーシップ」や「クリエイティビティ」、そして「顧客を中心としたマーケティング戦略立案」といった部分は、あまり求められていない。

 広告主がデジタルエージェンシーとの関係を打ち切る理由として多く挙げていた回答を見ると、さらにその実態が見えてくる。一番多かった「値段が高い」に続いて、「クリエイティブに不満がある」「規模や能力が自分たちの案件にマッチしない」「プロジェクト管理に不満がある」「戦略に不満がある」といったものが並んでいる。

 こういった点を踏まえて考えると、広告主がデジタルエージェンシーの利用を拡大している目的は、戦略的なアドバイザーの獲得というよりも、実務面でのリソース確保という意味合いが強い。つまり知見や洞察といった、いわゆる「知」の側面ではなく、単純に「手足」が求められている結果になっている。

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