(Elliot King)

 いくつかの大手ストレージ・ベンダーからの最近の発表は,中小企業(SMB)向けのバックアップ・ソフトウエア市場でますます加熱する競争を際立たせている。まず2005年1月に米VERITAS Softwareが2つ新しいバックアップ・パッケージの出荷を開始した。「Backup Exec 10.0 for Windows Servers」と「VERITAS Backup Exec Suite」である(既報)。

新版のBackup Execで積極策に出るVERITAS
 100以上の新機能を備えた2つのパッケージは,同社の歴史上最重要なリリースである,と同社はいう。新バージョンは,バックアップ・ストレージの集中管理と継続的なデータ保護機能を備えている。VERITASはこれらのリリースに続いて,ソニーがBackup Exec 10.0の最初のOEMパートナになり,同社ブランドのAITやDDS-4などのテープ・ドライブ製品に「Backup Exec QuickStart Edition 10.0」がバンドルされることも発表して華を添えた。

 米Symantecとの合併のさなかにあるVERITASは,明らかにバックアップ/リカバリの分野で,特にSMB向けのエリアでリーダーシップの地位につこうと積極的に動いている。市場調査会社のIDCによると,VERITASは2004年第3四半期にバックアップ/アーカイブ市場全体の40.4%のシェアを獲得している。NPD Groupという別の調査機関は,SMB向けバックアップ/リカバリ市場での同社のシェアを53%としている。

EMCは買収したDantzの製品で中小企業向けに進出
 VERITASの発表の合間に米EMCは,「EMC Dantz Retrospect」の新機能を公開した(関連記事)。これはEMCが2004年10月に米Dantz Developmentから5000万ドルで買収したバックアップ/リカバリ用パッケージで,EMCの製品系列をSMBのエリアに拡大するものだ。EMC Dantz Retrospectは,元々Macintosh向けのソフトだったが,今回の製品はWindowsやRed Hat Linux,Solarisが稼働しているサーバーやデスクトップPC,ノートブック向けのバックアップとワン・ステップでのリカバリ機能を提供する。2005年1月末に発表した「EMC Dantz Retrospect 7 for Windows」は,データ保護を自動化する新しいウィザードを含んでいる。メジャーなアップグレードではないが,今回の発表は,EMCが長年他社に譲っていたSMB市場へ参入する決断を示している

巨大なSMB向けバックアップ市場にベンダーが群がる
 何がSMB向けストレージの世界を動かしているのだろうか。3つの要因が,SMBの世界でストレージ/バックアップ/リカバリ製品のベンダーたちにますます熱い競争を起こしている。第1に,その市場自体が巨大であり,ベンダーたちの絶好の機会を提供するエリアとして成長を続けている。第2にバックアップとリカバリはSMBにとって引き続き問題となっている。第3にその問題はよくなるどころか,さらに悪くなりそうだ。

 多くの大手ITベンダーは,Fortune 3000の企業や大きな政府機関の需要を満たすことに長い間集中してきた。しかし,米国だけで中小企業が使うIT投資額はいくつかの予測によると現在年間3000億ドル以上になり,さらに2008年までに7000億ドル近くに成長するとされている。IDCによれば,SMB分野は現在IT投資全体の54%を占めており,このエリアにいる企業はITへの投資意欲をますます強めている。事実,今や世界全体での収益の約20%をSMBから上げているIBMは,SMBのエリアはその事業の中で一番急速に成長している部分だといっている。

 堅調な成長が見込まれるにもかかわらず,SMBという区分はストレージやバックアップ,リカバリ製品のベンダーにとって依然扱いにくいままである。

中小企業は大容量を扱う,管理も複雑に
 そもそも「SMB(中小企業)」という名前はちょっと間違った名前である。SMB市場は普通,従業員数によって3つの区分に分けられる。一番よく使われる線引きは,従業員3000から1000人,1000から100人,100人以下と分ける方法だ。もちろん100人以下しか従業員がいない会社の技術的なニーズとリソースは,3000人規模の会社のそれらとは大きく異なる。だが,これらの異なる規模の企業が共通に抱えているのは,管理すべきデータ量が毎年50%以上増えていくことだ。従業員数と管理すべきデータ量は必ずしも相関関係があるわけではない。

 また,そのデータの大部分(多分60%ほど)はデスクトップやノートPCに保管されていることだ。だがIDCによれば全SMBのうち40%しか自分たちのデータを定期的にバックアップしていない。バックアップはあまりに複雑で時間がかかる作業のため,大規模で専門のIT担当者を持たない企業では一貫して実行できていない。

 さらにSMBの間でバックアップとリカバリの問題を複雑にしているのは,USBフラッシュ・メモリーやメモリー・カードのような個人向けストレージ技術の出現である。こうした技術が一般的になることは,つまり,普段企業ネットワークに接続されていないデバイスに今よりももっとたくさんのデータが保管されるようになるということだ。SMBがこの事態に対処するために取らなければならない最初のステップは,恐らく技術的なものでなく考え方だ。企業は重要なデータを確実に保護するためのポリシーを決めなければならない。そうしたポリシーがあって初めて,技術的なソリューションを後押しできる。

 SMB市場のセグメントは,導入や管理が簡単なバックアップ/リカバリ製品を提供するベンダーにとって金鉱になる可能性を秘めている。SMBが抱える課題に対応する方法は,ストレージ・ベンダーによって異なっている。例えば,VERITASのようにOEMと提携する,EMCのように技術や会社自体を買収する,あるいは小さな組織のデータ・ストレージと検索機能の要求に見合うように特別に調整された製品を開発する――などのアプローチがある。