最近では,ノートパソコンの上位機種に,Bluetoothを標準搭載するものが出てきた。対応する周辺機器の種類も増えている。例えばソニーは,Bluetooth搭載のデジタルカメラを発売している(写真1)。デジタルカメラで撮った写真をパソコンに転送するのに,Bluetoothを利用する。
Bluetoothの標準化団体であるBluetooth SIG(Special Interest Group)の当初からの参加企業である東芝は,Bluetooth搭載の家電シリーズ「FEMINITY」を発売している。冷蔵庫やオーブンレンジ,乾燥機などをBluetoothで接続し,タッチパネル方式の液晶ディスプレイで遠隔操作できるようにしたものだ(写真2)。もっともこの製品群は「実験的な意味合いが濃い」(東芝BT&ワイヤレス事業推進室の伊藤春彦室長)という。
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Bluetoothでイーサネットを送る
図4●BNEPのフレーム・フォーマット イーサネットのヘッダー部分を,L2CAPとBNEPのヘッダーに置き換える。実際のデータ部分は,イーサネットのものをそのまま使う。 |
Bluetooth SIGは,現在新たなプロファイルの策定を進めている。LANなどで広く使われるイーサネットをエミュレートする「PAN」である。PANでは「BNEP(Bluetooth Network Encapsulation Protocol)」というプロトコルを使う。BNEPはイーサネットのデータ形式をそのまま使い,ヘッダー部分を独自のものに置き換える(図4[拡大表示])。
PANを使うことのメリットは主に三つある。一つは,同時に複数のアプリケーションによる通信が可能になることだ。RFCOMMを使ったシリアルポートによる通信は,一つのアプリケーションがポートを占有してしまうという側面がある。一つの機器が複数のアプリケーションを持っていても,これでは同時に利用できない。PANを使えばこの問題は解決できる。
二つ目は,さまざまな用途に使える汎用プロファイルであることだ。このメリットを強調するのが米Microsoft社だ。同社は,今後のBluetoothアプリケーションの開発にはPANを使うよう推奨している。「少ないプロファイルでより多くのアプリケーションに対応できた方がいい。だから,より汎用的なPANを使ってほしい」(マイクロソフトプロダクトディベロップメントリミテッドウィンドウズ開発統括部ハードウェア&ドライバクオリティグループドライバクオリティチームの齋藤満プログラムマネージャ)という。PANプロファイルは,Windows XPのサービスパック2に含まれる見込みである。
三つ目は,既存のLAN上で動いている数多くのTCP/IPベースのアプリケーションがBluetoothですぐに使えるようになること。「TCP/IPによるネットワークが世界中で標準化している今,この資産を活用した方がさまざまな意味で合理的だ。BluetoothもTCP/IPネットワークの一員となっていく可能性が高い」(オープンインタフェースの杉山文彦常務取締役)。ただし,すべてのBluetooth機器がTCP/IPを使うようになるわけではない。スペックが低く,TCP/IPのような重いプロトコルが向かない機器もあるからだ。「従来のBluetoothのプロファイルも併用されていくことになるだろう」(杉山氏)。
“休んで”,消費電力抑えるZigBee
Bluetoothと同じ2.4GHz帯を使いながら,Bluetoothとは別のアプローチを採る技術も登場している。蘭Royal Philips Electronics社などが中心となっている標準化団体ZigBee Allianceや,IEEEの802.15委員会で標準化作業が進められているZigBeeである。
ZigBeeは,休止状態がほとんどで,ごくたまにしか使われない通信のための技術である。例えば家電を制御するリモコンや,センサーなどが主なターゲットになる。
ZigBeeの速度は,250kビット/秒。Bluetoothに比べて低速だが,その分省電力なのが特徴だ。通信する必要がない期間はスリープモードに入ることで消費電力を減らす。
Bluetoothにも,省電力モードはある。しかしその間も,マスターとスレーブの同期を保つために,一定期間ごとにパケットを送り合う必要がある。ZigBeeはBluetoothよりもその頻度が少ない。つまり,“きちんと休める”ことがZigBeeの強みである。
ZigBeeの正式な仕様は,2003年の早いうちにZigBee Allianceで決定される見込みだ。製品は2003年の中頃に登場する予定だという。