パソコンと周辺機器をケーブルなしで接続する無線インタフェース。有線のインタフェースが数多くあるのと同じく,さまざまな無線規格が存在する。対応製品が増えてきたのはBluetoothだ。最近では,IPを使った汎用的なプロトコル・スタックを用意する動きが出てきた。Bluetooth以外には,省電力が特徴のZigBee,有線のIEEE 1394を無線化するWireless 1394が現在策定中だ。一方,一時下火になったかと思われた赤外線通信でも新しい動きがある。

表1●無線インタフェースの種類と概要
Bluetooth,ZigBee,Wireless 1394は電波(2.4GHz帯および5GHz帯)を,IrDAとIrBurstは赤外線を使って通信する。このうち仕様が正式決定されていて,製品が出荷されているのはBluetoothとIrDAである。
 テレビ放送,アマチュア無線,携帯電話。我々の身の回りにはさまざまな無線通信がある。ここ最近身近になった非接触型のICカードも,無線通信を利用している。JR東日本が2001年11月から改札システムに導入した「Suica」が好例だ。

 パソコンを使用する局面に限定すると,今最も脚光を浴びている無線技術は無線LANだろう。通常イーサネット・ケーブルで接続されるパソコン同士を,無線でつなぐ。

 パソコンとパソコンではなく,パソコンと周辺機器の接続を無線化するための技術もある。パソコンには,周辺機器を接続するための有線のインタフェースがいくつも用意されている。従来ならばここに差し込んでいたケーブルの役割を果たす無線通信だ。

 今回は,パソコンと周辺機器を無線で接続するインタフェースを取り上げる。インタフェースに求められる要件は,接続する機器が何か,それを使って何をするかで決まる。接続する機器の処理性能やバッテリの持ちが,インタフェースの仕様を左右する。周辺機器よりも処理性能が高いパソコンにとっては,どのインタフェースで通信しようと大きな問題ではない。このためほとんどのパソコンが複数のインタフェースを備え,多くの周辺機器に対して接続の口を開いている(表1[拡大表示])。

図1●無線インタフェースの通信距離と速度
理論上の値を基にして作成した。現在IrDAの最大速度は16Mビット/秒だが,100Mビット/秒の通信が可能な仕様の策定も進んでいる。点線部分は,これが正式決定されたと仮定した場合のもの。100Mビット/秒の場合の通信距離はまだはっきりしておらず,1mより短くなる可能性もある。

 無線インタフェースは,免許の不要な周波数帯(2.4GHz帯など)の電波を使うものと赤外線を使うものに大別できる。両者の大きな違いは,通信時に機器を向かい合わせる必要があるかどうかだ。電波は,ある一定の範囲内ならば機器の向きを問わない。壁で仕切られていても通信できる。半面,電波が届く距離内に機器を持ち込めば誰でも通信できてしまうため,特定の相手と通信したいのなら認証の仕組みを組み合わせなければならない。

 一方の赤外線通信は,通信するためには機器の受光部を向かい合わせる必要があり,機器間に障害物があってはならない。ユーザーの「通信したい」という意思がなければ通信できない。

 電波を使う技術として実用化されているのがBluetoothだ(図1[拡大表示])。国内でも,対応製品が増えてきた。また,より省電力なZigBeeや,既存の有線インタフェースを無線化するWireless 1394などの新しい規格の策定も進んでいる。

 赤外線通信の代表的存在はIrDAである。大容量転送を目的とする,IrBurstという規格が提案されている。

増えてきたBluetooth搭載製品

 まずは,無線インタフェースの主流と目されるBluetoothを見てみよう。Bluetoothは,10m以下という目の届く範囲内にあり,それほど高速なデータ転送を必要としない機器同士を接続することを主目的とするインタフェースである。接続対象としては,パソコンを始め,周辺機器やPDA,携帯電話など幅広い機器が想定されている。

図2●Bluetoothの通信開始の仕組み
Bluetoothでは,最初に接続を要求する機器がマスターとなる。それ以外の機器はスレーブとしてマスターの管理下に入る。スレーブ同士が通信する場合はマスターを経由する必要がある。接続はまず,マスターが通信可能な機器を探すことから始まる。機器が見つかると,その中で通信したい相手と接続のネゴシエーションをする。その後,相手が通信してよい機器かどうかの認証をする(認証しないように設定もできる)。
 
図3●Bluetoothのプロトコル・スタック
Bluetoothの標準化団体Bluetooth SIGの仕様書に基づいて作成。Bluetoothの仕様は,コアとプロファイルに分かれる。コアは,無線部分の通信や制御の方式を決める仕様。プロトコルやファイルのフォーマットを用途別に規定した仕様群をプロファイルと呼ぶ。ヘッドセット,ファクシミリ,プリンタなど,さまざまな種類のプロファイルが規格化されていることがBluetoothの特徴の一つである。現在は,イーサネットをエミュレートするプロファイル「PAN」の策定も進んでいる。PANでは,「BNEP」というプロトコルを使う。

 Bluetoothの通信は,通信の主導権を握るマスターとその管理下に置かれるスレーブから成る。1台のマスターに対して,スレーブは7台まで接続できる。基本的に,どの機器もマスター,スレーブの両方になれる。他の機器と通信を開始しようとした機器が自動的にマスターとなる(図2[拡大表示])。無線LANのように,アンテナを持った専用のアクセスポイントは必要ない。

 接続する機器の種類が多ければ,そこでやり取りされる通信の種類もさまざまだ。Bluetoothでは,通信の内容に応じた多くのプロファイル(プロトコルやデータの形式)が規格化されている(図3[拡大表示])。代表的なプロファイルとしては,シリアルポートをエミュレートするRFCOMMがある。シリアルポートを利用する既存のアプリケーションを流用する場面で,広く使われている。

 Bluetoothのアプリケーションは,こうしたプロファイルを利用して作られる。例えばマウスやキーボードがBluetoothを備えていれば,ケーブルを使わずにBluetooth搭載のパソコンと接続できる。携帯電話とヘッドセットの両方にBluetoothのモジュールを埋め込んだ製品もある。

(八木 玲子)