銀メッキの作用で鮮明な文字表示

図3●ソニーが開発した電解析出型のe-paper
銀イオンが透明電極に付着するときに銀として析出する(メッキのような状態)。白の反射率が70%を超え,文字を読みやすいディスプレイだ。

 ソニーが開発したe-paperの特徴は,白の反射率が70%以上と高いことだ。ちなみに,携帯電話の表示部でよく用いられる反射型ディスプレイは30%ほどの反射率である。コントラスト比は30対1と高く,文字の視認性がよい。現在の解像度は150dpi以上。漫画の吹き出しや文字のルビが見える解像度を目安にしたという。

 e-paperの表示には,銀イオンが電極に付着して金属に変化するときに黒く見えることを利用している(図3[拡大表示])。構造は,下側に銀電極,上側に透明電極が直交するように配置し,両電極は固体電解質を挟んでいる。

 表示原理は次のようになる。1.5Vの電圧をかけ,銀電極をプラス,透明電極をマイナスに印加する。すると,銀電極では電子を渡した銀が銀イオン(Ag+)になり,溶解する。銀イオンは透明電極に付着し,いわば銀メッキのような状態になる。この銀が付着した状態が黒く見えるよう電解質の組成を工夫している。文字を消去したいときは,透明電極をプラスになるように電圧をかけて,銀をイオン化させる。

 電圧をオフにしたままで表示を保持できる時間は30分ほどだ。同社は「表示時間は長ければいいとは限らない。最適な表示時間はe-paperの用途によって異なる。例えば,ICカード用の表示部に利用するとしたらすぐに消えるほうがよい」(ソニー ディスプレイ技術研究所EPデバイスGp.の篠崎研二グループリーダー)という。静止画の表示を想定しており,動画への対応は考えていない。材料(電解質)自体は100万回の書き換えに対応できる。

 高反射率により,カラーフィルタを載せても30%くらいの反射率を保持できカラー化は問題ない。現時点での製品化への課題は,信頼性を高めることだ。ガラス基板同士を封止するシールを安定させ,水分が入って電極がさびたりしないようにするという。

液晶を利用して生産設備を流用

図4●大日本インキの液晶を使った電子ペーパー
内部に樹脂が立体的に張り巡らされている(ポリマー・ネットワーク)。液晶はポリマー・ネットワークに沿ってランダムにさまざまな方向を向いている。ランダムな配向をした液晶分子で光が散乱し,白の反射率が上がる。

 一方,大日本インキが開発した電子ペーパーは表示の素材に液晶を使っている(図4[拡大表示])。電子ペーパーは表示の仕組みが特殊であるため,液晶ディスプレイに比べて当初はコストは高くなる。ところが,表示に液晶を使えば現在の設備をほぼ流用でき,コストを抑えられる。用途は電子書籍や新聞の置き換えなどを想定している。

 ただ,液晶を使うデメリットもある。液晶という性質上,曲げられるようにできない。手で力を加えたところに液晶が並んでしまいグレーがかってしまうためだ。

 このディスプレイの特徴は,既存の液晶ディスプレイにくらべ薄く高コントラストにできること。これはポリマー・ネットワークという立体的な網状の樹脂を使うからだ。ポリマー・ネットワークをガラス基板同士の間に張り巡らせると,液晶分子の向き(配向)をランダムにさせられる。こうして,外光を散乱させて白の反射率を高められる。それに加え,光の振動方向を調節する「偏光板」と液晶分子の配向を制御する「配向膜」が不要になるため光の透過性が上がる。薄型化も可能だ。

 大日本インキはこの電子ペーパーを1988年に開発した。改良を重ねて現在は実用化レベルに達しているという。

 電圧をオンにすると液晶分子が垂直に立ち,黒表示になる。液晶が垂直に立つと光が通過し,背面にある黒い膜で光が吸収されるためだ。電圧がオフの状態では,光がランダムに並んだ液晶分子に反射して白表示になる。

 液晶を採用しているため70ミリ秒と応答速度が速いのが特徴である。他社の電子ペーパーはまだ数百ミリ秒ほどの応答速度しかない。同社は速い応答速度を生かして,スクロールや画面の切り替えの速さを売りにした電子ペーパーを考えている。

 一方で,電圧をオフにした状態で保持できる表示時間は10分と短めだ。「この表示時間を長くしようとすると,応答速度が犠牲になってしまう」(大日本インキ化学工業 R&D本部新技術開発センターの藤沢宣主任研究員)という。消費電力を低くしながら,表示を保持する時間と応答速度のバランスを取るように改良を続けている。

図5●キヤノンが開発した水平型電気泳動ディスプレイ
片面にだけ電極があり,第2電極の上に細い第1電極が配置してある。帯電した黒い粒子が移動することで白と黒を表示する。

片側の電極上で粒子が移動する

 これまで見てきた3社の電子ペーパーの構造は,上下に電極を置き,その間を物質が移動したり方向を変えたりすることで表示をするものだった。これに対してキヤノンは片面だけに電極を置き,黒い粒子を平面上で移動させるという方法を採っている(図5[拡大表示])。同社は「ペーパーライク・ディスプレイ」と呼んでいる。

 ディスプレイ一面に第2電極があり,その上に第1電極と呼ぶ細い電極を格子状に張り巡らせた構造になっている。格子の間にできる四角形のセルが画素になる。第1電極は120μmごとに並ぶ。

 文字や絵の表示は,プラスに帯電した黒い粒子を電極間で移動させる仕組みだ。第2電極にマイナスの電圧をかけると,黒い粒子が一面に広がり黒表示になる。逆に第1電極をマイナスにすると,粒子は5μmほどの第1電極上に集まった状態になる。そこで,上からみると白表示になる。黒の粒子が底面と壁面それぞれにつく量で色の濃さが決まるため,中間調の表示に優れる。

 時間の経過とともに,黒く表示した部分は白っぽくなってくる。これは,表示のために電極に電流を流すと,電源を切っても第1電極に電荷が残り,第1電極に黒の粒子が集まってくるためだ。時間が経つと黒の粒子が一面に広がり画面は黒くなる。

 同社の電子ペーパーはデバイスを薄くできる。セルの厚みはE Inkが開発した電子ペーパーに使うマイクロカプセルの半分ほどである15~20μm。解像度は200dpiで,細い線もきれいに描ける。プラスチック基板を使って,下敷きのように曲げることもできる。

 用途は「オフィスで使うことを目的にしている。ディスプレイの内容を出力する印刷紙の置き換えや,会議の配布資料など」(キヤノン中央研究所 PLDプロジェクトPLD第三研究室の松田宏チーフ)を考えているという。

 改良点としては白表示をより白くするために,電極や黒の粒子の改良を進めている。電極に関しては,格子状に配置してある細い第1電極の高さをより高くする。すると,側面に付着する黒粒子の量を増やせるので,白表示がきれいに見える。黒の粒子をより小さくする改良も進めている。

 今のところ,駆動電圧は高めである。20~30Vの電圧をかけて20ミリ秒ほどの応答速度を実現している。スイッチング素子を使うものも開発中で,TFTを使った場合は10Vの電圧で500ミリ秒になるという。ただ,低電圧にした場合,電源を切ると数分しか表示が持たない。同社では消費電力を低く抑え,同時に表示を保持するために改良を進めている。

(堀内 かほり)