本コラムでも以前に何度か紹介したが,米国では今,レコード業界とインターネット・ユーザーの争いが激化している(関連記事)。ファイル交換サービスを使って海賊版音楽(違法コピー)を取引するユーザーを,RIAA(全米レコード産業協会)が告訴する方針を固めたのだ。

 裁判で有罪となった利用者には,12万5000ドルもの罰金が課せられる。これに対し,一部のユーザーは「プライバシ侵害」などを理由に,レコード業界と正面対決する構えを見せている。

告訴表明が既に効果を上げている?

 しかしRIAAの告訴表明は,現時点でもかなりの効果を上げ始めたようだ。市場調査団体NPD Groupによれば,告訴表明の直後からファイル交換サービスのユーザーが減り始めたという(関連記事)。

 4月の利用者数は1450万世帯だったが,5月には1270万世帯,6月には1040万世帯と確かに急落している。ただし,この背景には季節要因もあるらしい。ファイル交換サービスのヘビー・ユーザーである大学生が,夏休みに入ってキャンパスの高速回線を使えなくなったからだ。NPDは「(どちらが本当の理由か)ハッキリした結論は出せない」としているが,恐らく「訴訟」と「季節要因」の両方が影響しているだろう。

 日本でも訴訟は効果があるようだ。日本では,ファイル交換サービスの利用者は推定185万人(日本レコード協会調べ)と,米国の3%程度である。そこには「貸しレコード店」という日本独自の要因があるが,これを差し引いても,インターネット海賊版の被害は驚くほど小さい。

 日本レコード協会によれば,これには「早い段階で法的措置に訴えたのが効いた」という。確かに日本の音楽業界は2001年11月の時点で,(日本のファイル交換サービス)WinMX上のヘビー・ユーザー2名を警察に通報し,有無を言わさず逮捕に追い込んでいる。「お上が支配する国」日本では,米国よりもこういう点は素早いのだ。

 日本ではわずか2人が逮捕されただけ。米国でもRIAAが告訴状を送りつけたのは,当面1000人程度にとどまっている。米国の利用者は6000万人程度と言われるから,起訴される確率は6万人に1人である。日本ではもっと小さい。それでもファイル交換サービスから足が遠のいてしまう。レコード会社から見れば,「ちょろいもんだ」という感想だろうか。消費者側にしても,もともと「是が非でも,これ(ファイル交換サービス)を使わないと音楽が手に入らない」というわけでもない。

裁判の行方がオンライン配信ビジネスの将来を左右する

 そもそも人はなぜ,ファイル交換サービスに惹きつけられるのか。私自身,(もちろん原稿を書くために)試しにKaZaAを使ったことがあるが,一種の優越感を抱いたのを覚えている。別に自分がPtoP技術を開発したわけでもないのに,ただそれを使うだけで,レコード会社や「高いCDを買わされている一般消費者」を出し抜いたような気分になるのだ。

 “サイバー闇市”の利用者にしてみれば,恐らく海賊版の実益よりも,こうした快感の方が本質的な動機となっているのではないか。いわばゲームである。敵がこの程度の心構えなら,レコード会社の脅し(訴訟)はよく効く。

 もっとも戦いの決着はいまだついたわけではない。夏休み明けに利用者数が再び増加するかもしれないし,連邦議会ではRIAA訴訟の棄却を求める新法案が提出される気配もある。「選挙の際に6000万人のファイル交換サービス利用者(=有権者)を敵に回したくない」と考える議員がたくさんいるからだ。

 RIAAは是が非でも裁判に持ち込み,勝たなければならない。負ければ一挙にゲームの流れが変わり,これから本格的に取り組もうとしているオンライン配信ビジネスが,しょっぱなから苦境に立たされるからだ。