ライブドアが公衆無線LANサービス「D-cubic」を開始すると発表した(関連記事)。7月に試験サービスとして東京・港区と新宿区でサービスを開始し,10月の正式サービス開始時には,東京山手線圏内の約8割をカバーする。事業計画発表会に登場した堀江貴文代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)は「インターネットやビジネスのスタイルを変えてしまうかもしれない大きな事業」と意気込みを見せた。

 ライブドアにとって今回のサービスは,本格的な通信インフラ事業への参入と言える。そのための強力な援軍としてパワードコムの協力を取り付けた(関連記事)。東京電力の電柱に無線LANのアクセス・ポイント(AP)を設置し,パワードコムの光ファイバで結ぶ。10月の本サービス開始時点で約2200台のAPを設置するという。

 パワードコムとの協力関係は通信インフラ面にとどまらない。パワードコムが抱える約4000社の法人ユーザーに,公衆無線LANを「モビリティ・ソリューションとして提案する」(パワードコムの中根滋代表取締役社長兼CEO)。特に巨額の初期投資を必要とするサービスだけに,個人ユーザーの獲得と別に法人ユーザー開拓の道をつけられたことは大きな意味を持つだろう。

 ただ,同社のシステムには懸念材料もある。例えば今回のサービスで採用した無線LAN方式IEEE 802.11bと同11gが,ともに2.4GHz帯の周波数を使うこと。ISMバンド(industrial, scientific and medical applications band)である同周波数帯は,電子レンジや医療用加熱装置などと共用するため,干渉が避けられない。電子レンジを使うコンビニエンスストアが点在する山手線圏内では,干渉を受ける地域が少なくないだろう。その一方,5GHz帯を使う無線LAN方式IEEE 802.11aは,まだ屋外利用が解禁されていない。ライブドアの担当者はサービスに2.4GHz帯を使わざるを得なかったことに「厳しい面がある」と当惑を隠さなかった。

 堀江社長兼CEOは発表会を「かつてソフトバンクはADSLを2000円台で提供して日本のインターネット市場を変えた。今回はそのモバイル版。ADSLよりも安く提供する」と締めくくった。月額500円台という料金でしかも広域を面的にカバーする公衆無線LANサービスは日本では初めて。この新サービスがどれだけのビジネスに成長するか,そして通信インフラ事業者としてライブドアがどこまでのサービスを提供できるのか--。まずは7月から始まる試験サービスで,ライブドアのお手並みを拝見しよう。

(松本 敏明=日経コミュニケーション 副編集長)