6月6日,フュージョン・コミュニケーションズが無料IP電話「Skype」を提供するルクセンブルグのスカイプ・テクノロジーズと提携を発表した(関連記事)。今秋にSkypeのユーザーがフュージョンの配布した「050番号」で着信可能にする計画という。千葉市・幕張メッセで開催中の「Interop Tokyo 2005」に,サービスを展示している(関連記事)。

 フュージョンとスカイプの連携サービスを簡単にいうと,フュージョンのIP電話サービス「FUSION IP-Phone」の050番号への着信呼を,「SKYPEゲートウエイ」と呼ぶ機器がSkypeに転送することで実現する。SKYPEゲートウエイがフュージョンのIP電話網とインターネット上のSkypeをつなぐ役割をする格好だ。

 SkypeはパソコンにインストールしてIP電話を利用する「ソフトフォン」である。音質の良さなどが受け,4月に全世界でダウンロード数が1億を突破した。日本だけのダウンロード数でも300万を超え,Skypeを外線電話に使う企業も現れている。ただその一方,国内の電話番号で固定電話から着信を受けることができなかった。

 これまでSkypeに対して多くの通信事業者は冷ややかな反応を示していた。Skypeはユーザーには無料でIP電話を使えるというメリットがあるものの,「ネットワーク・インフラを提供する通信事業者に利益を落とさない」ことがその一因のようだ。通信事業者にとっては,自社が構築したネットワーク・インフラをIP電話に使われてもその料金が手に入るわけではなく,有償で提供している電話サービスにSkypeが競合する。Skypeの拡大は歓迎できない状況にあったわけだ。

 フュージョンが計画するサービスは,Skypeの拡大を逆手に取ったもの。Skypeのユーザーが増加し,050番号を使うためフュージョンのIP電話サービスを契約してくれれば,ユーザーの拡大という「実」を取れる。スカイプにもメリットがある。フュージョンのサービスを経由すれば他のIP電話と同じように050番号を使えるからだ。結果として,電話として欠かせない着信機能を手に入れられる。

 今回のサービスは,自分にとって有益なものなら競合するサービスでも活用するという貪欲な姿勢と,ライバルの成長を自分のプラスに転化させるアイデアが生み出したものと言える。特にここ数年通信サービスの料金低廉化で,通信事業者間の競争が激化している。料金競争に陥らないようにしながら,新しい発想で戦略を生み出せる能力は,今後の厳しい競争を勝ち抜く上で強力な武器となることは間違いない。

(松本 敏明=日経コミュニケーション 副編集長)