米国メーカーが製品のリサイクルに向けて,重い腰を上げつつある。

 米Hewlett-Packard(HP)や米Thomsonなどから成る電機メーカーの業界団体Electronic Industries Allianceが米国時間6月21日に,テレビやパソコンなどの製品リサイクルを実現するためのパイロット・プログラムを10月に始めると発表した。これ以前にも,さまざまな業界団体やIT企業などが同様のプロジェクトを立ち上げており,リサイクルへの機運は今までになく盛り上がっている。

 他の先進諸外国に比べ,米国はリサイクルへの取り組みが遅れていた。しかし,ここにきて風向きが変わり始めた。背景には欧州(EU)の動きがある。欧州で,厳しいリサイクル法案が可決されそうなのだ。

 欧州議会(European Parliament)はこの5月に,使われなくなった製品を引き取りリサイクルするようメーカーに強制する法案を可決した。同地域で営業する全ての電機/ITメーカーが対象になる。この法案は6月中に欧州評議会(Council of the European Union)の審議にかけられ,採択される見通しとなっている。さらに欧州各国の議会での批准を経て法制化される。

 米国の電機/ITメーカーは,欧州に多数の製品を輸出している。リサイクル法が施行されたとたんに,欧州で使われなくなった大量の中古パソコンやテレビが一気に米国企業に逆流する。ただでさえ,途方もない台数の電機/IT製品が米国内に溢れている。欧州からの逆流を目前に控え,米国企業も重い腰を上げざるを得なくなった。

 米EPA(Environmental Protection Agency)の推計によれば,使われなくなった電機/IT製品の75%は未処分のまま,企業や家庭に眠っている。またNational Safety Councilによれば,2002年までには「1年間に使われなくなる中古パソコンの台数が,新たに製造されるパソコンを上回る」という。

 多くの電機/IT製品は内部に,鉛や砒素(ひそ),水銀,カドミウムなどの有害物質を含んでいる。これを現在のペースでゴミ処理場に廃棄することは,いかに国土の広い米国といえども許されなくなってきた。ニューヨークなどの都市部では,新たなゴミ処理場を建設する際に,日本と同様の住民の激しい反対運動が巻き起こる。

 日本の場合は,政府主導で「家電リサイクル法」を作り,この4月から施行している。違法投棄などの問題を生んではいるものの,まずは「循環経済」への足掛かりを作った。しかし米国は,法規制によって全米レベルで網をかけ,リサイクルを軌道に乗せることが難しい。州の意向が強く働くほか,企業がワシントンで展開するロビー活動などによって矛先が鈍ることが少なくない。しかも電機/IT業界は,リサイクルに政府が介入することを毛嫌いしている。

州の動きは鈍い

 各州では電機/ITメーカーのリサイクルを義務づける法案の審議に入ったが,現在までに法制化に漕ぎ着けたのはマサチューセッツ州だけ。それもパソコンやテレビに使われるCRTの廃棄を禁止するといった限定的な措置だ。このほかではオレゴン州とアーカンソーの2州で,消費者がお金を支払ってメーカーなどに古い商品を引きとってもらう法案を審議しているのが目立つくらいである。

 このようにリサイクルの法制化という点で米国は,日本に一歩も二歩も後れている。筆者のみるところ,米国では今後とも,欧州や日本のような法制度による全国的なリサイクル義務化が実現するか極めて怪しい。

 冒頭で紹介したように,各種業界団体,あるいは米IBM,ソニー,HP社といった企業が,個別にリサイクル活動を展開する動きはある。しかし,その多くはパイロット・プログラム(試行段階)である。また多くの家電/ITメーカーは,消費者に経費を負担してもらって古い製品を引きとっているのが現状だ。

 この結果,リサイクル向けに引き取られる製品の数は極めて少ない。筆者のみるところ,米国における企業のリサイクルの取り組みは,いまのところPRを狙った儀式的な色彩が強い。

 大量生産・大量消費の現代文明が限界に達していることは,誰でも感じているはずだ。確かに誰もがモノを大切にして,故障したら修理して使い続けるというのは理想である。しかしこの理想郷が実現したら,現在の市場経済は機能しなくなる。製品のモデルチェンジを繰り返し,消費者に不要不急のモノを買ってもらわないと立ち行かない。

 こうした社会システムに製品リサイクルの枠組みを取り入れるには,政府によるある程度の介入が不可欠だろう。そうしないと,円滑な“回転”は難しい。ところが,なにせ“個”を尊重するお国柄。社会主義的なアプローチには少なからず抵抗がある。製品リサイクルを阻む最大の“抵抗勢力”は,実は米国の社会そのものなのかもしれない。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)

1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年),「わかる!クリック&モルタル」(ダイヤモンド社,2001年)がある。

◎関連記事
米HPもパソコン/サーバー回収サービス,手数料は13ドルから,リサイクル工場も建設
米IBMがパソコン回収サービスを発表,手数料は約30ドルで他社製品もOK
パソコン・リサイクルが活発に