携帯電話端末を内線電話端末としても利用できる「モバイル・セントレックス」に対してユーザー,ベンダーともに高い関心を寄せる(関連特集)。通話料金の削減に加え,ビジネス・スタイルの変革などさまざまな可能性が指摘されているからだ。

 初期に導入したユーザーからは,トラブル事例も聞こえてきたが,現在では落ち着きつつあるようだ。機器メーカーやインテグレータも,大企業から中小企業向けに幅広く製品をラインアップし,商戦はますます活発化すると予想される。

 この,一見,順風満帆にも見えるモバイル・セントレックスに強力なライバルになりそうなサービスが登場した。ウィルコム(旧DDIポケット)が開始する「ウィルコム定額プラン」だ(関連記事)。その名の通り,ウィルコムのPHS間での通話料金を定額にするサービスだ。

 “最先端”のモバイル・セントレックスと,NTTドコモの撤退が報じられるなど“時代遅れ”のイメージがぬぐえないPHS。一見して対照的な両サービスの間で熱い戦いが始まろうとしている。

「定額」なら社内も社外も区別無い

 モバイル・セントレックスの一つ,NTTドコモの「Passage Dupple」は,1台のFOMA端末が社内では無線LANを,社外ではFOMA網を利用する。通話相手が無線LAN圏内にいれば無線LANで,いなければFOMA網で通信する。固定電話と携帯電話を使い分けるわずらわしさから,つい「社内にいるのに,携帯でかけてしまう」ことによる無駄な出費を避けられるメリットは大きい。

 一方,PHS端末を全社員に配布してしまえば,何も考えずに,070のPHS番号にかければよい。相手が社内にいようがいまいが,料金は同じだからだ。

 実は,この音声定額サービス,当初は,今年秋の発表を予定していた。これを1月に就任した八剱洋一郎社長の判断で,3月発表の5月開始に繰り上げた。新年度が始まる4月には,転勤や進学などが多い。離れて暮らし始める家族に,定額通話放題は受け入れられるとの読みからだ。この読みは大当たりし,同社のサービス・センターは問い合わせが殺到し,一時パンクしたほどだった。

 このように,個人ユーザーを狙ったマーケティングを行っているが,実際には,企業からの問い合わせも多いという。一般消費者向けビジネスを主力としてきたPHS事業者にとって,新たなマーケットを開拓したことにもなる。早速,10台以上の契約なら1台あたり月額2200円のプランを打ち出した(従来は,1台目が2900円,2台目以降が2200円)。

 そして,さらなる法人需要の喚起に向け,固定電話との定額サービスを計画中だ。社外から社内への報告などが多い企業ユーザーの利用形態に合わせたサービスだ。現在,提携に向けて固定電話会社と交渉中だ。KDDI傘下を離れたことで,パートナを自由に選べる立場になったことも大きい。

モバイル・セントレックスの強みはIT系との親和性だが

 では,PHSに対するモバイル・セントレックスの優位性はどこにあるのか。

 モバイル・セントレックスは企業の内線電話のIP化が進む延長線上に登場したシステムだ。IP電話は,コスト削減だけでなくソフトフォンなどを利用して業務アプリケーションと連携するなど(関連記事),従来にはなかった電話の新しい使い方が期待できるとされる。

 モバイル・セントレックスも同様だ。携帯電話用のWebブラウザを活用するなどした業務アプリケーション連携の可能性が指摘されている。だが,実際には,「在席中」「会議中」といった相手の状態を把握できる「プレゼンス」の活用事例(関連記事)がちらほらと聞こえてくるだけ。ポテンシャルが高いことは,パソコンのWebアプリケーション活用事例から連想できるが,具体的なメリットはまだはっきりと見えてきていない。

 ユーザーもメーカー,インテグレータも「まずは音声から」といったところだろう。だが,音声通話に利用するなら,「社内にかけても社外にかけても,月々2200円ポッキリ」(10台以上契約の場合)と分かりやすいメリットをPHSがアピールし始めた。モバイル・セントレックスがこれに対抗するには「アプリケーションとの連携」に明確なビジョンを描く必要があるのではないか。

(前田 潤=日経コミュニケーション)

【おわびと訂正】
記事掲載当初,ウィルコム定額プランについて「(従来は,1台目が2900円,2台目以降が200円)」としましたが,正しくは「(従来は,1台目が2900円,2台目以降が2200円)」でした。おわびして訂正します。