「創業と守成,いずれが難き」。いまから1400年ほど前,唐の二代皇帝太宗が重臣に問いかけた。建国期に奮闘した房玄齢は「創業の方が困難が多い」と答え,国家の安定期にこれを治めた魏徴は「守成の方が難しい」と答えた。太宗は,「どちらも難しいが,創業は過去のものとなった。これからは守成の難しさを覚悟していこう」とまとめたという。

 「システム開発とシステム運用,いずれが難き」。社長がCIO(最高情報責任者)や情報システム部門長に問いかけたとしたら,どうなるだろうか。心ある経営者なら,新規開発プロジェクトの最盛期であれば「今は開発が大変だ」といい,新規構築が一巡した安定期であれば「運用が重要だ」と言うだろう。きれい事だが結局「開発と運用,どちらも大変で,どちらも重要」なのだ。

 ところが,である。日経コンピュータの記者が記事のネタを考えるとしよう。開発事例は,成功例も失敗例も記事になる。だが運用の事例となると,もっぱら失敗の話ばかり取り上げがちだ。いささか誇張していえば,新規開発プロジェクトの話は,日経コンピュータの誌面でニュースにも特集記事にも『ザ・プロジェクト』の記事にもなるのに,運用の話は主に『動かないコンピュータ』にシステム障害や情報漏洩などのトラブル事例が載る,という具合である。

 もちろん,『動かないコンピュータ』には,開発プロジェクトの失敗事例も積極的に取り上げている。優れた運用事例を紹介する『運用を極める』というコーナーもある。とはいえ,日経コンピュータが,『運用を極める』を開始したのは1981年秋の創刊から20年以上経過した昨年6月。弊社全体で言えば「日経システム構築」という媒体はあるが,残念ながらまだ「日経システム運用」という媒体はない。

「開発」は加点,「運用」は減点法

 なぜこんな“偏向報道”がまかり通ってしまうのか。

 これもいささか誇張するが,メディアは「新しい出来事」「大多数のヒトがまだ知らなくて,知りたい情報」を報道する商売である。「平穏無事,昨日も今日も何事もなく安定した運用事例」の話は,後者の切り口で取り上げる価値はあるのだが,その優れた点を記者が正しく見極めて伝える能力が求められる。他方「予期せぬトラブル」の話は,単に「新しい出来事」としてネタになる。

 自己弁護にしかならぬが,「開発」と「運用」に対するこのような偏った見方は,報道機関だけでなく,エンド・ユーザーにも,悲しいことにシステム部門自体の中にも蔓延している。

 サッカーに例えれば,情報システム部門のうち,企画・設計・開発サイドは「得点を上げる」ミッションを与えられたフォワード,運用サイドは「失点しない」ミッションを与えられたディフェンスのように扱われる。フォワードは目立つ。新規システムが稼働して「業務が改革された」「新商品や新規事業が可能になった」などと褒められる。開発生産性などで定量評価もしやすい。

 他方,組織力や安定感を問われるディフェンスは定量評価されにくい。トラブルの発生時になって初めて,その存在が注目されるから,感情的に減点法で評価されがちだ。

「運用重視」に偏向してみよう

 同じような問題意識から,当「記者の眼」でちょうど2年前,「運用こそが上流工程,開発は下流工程」,という記事を書いた記者がいる。

 非常に反響は大きかったが,いかんせん「保守/運用」という言葉のイメージが悪いから,まずはカンバンを掛け替えようと,「投票をお願いします!「保守/運用」の代替名」へ脱線したのがまずかった。こんな投票結果がまとまったものの,それで話が終わってしまった。

 今度こそ,本腰を入れて「運用重視」の流れを作らねばならない。なりふり構わず「運用」を応援したい!なのである。そこで,以下のような雄叫びをあげさせていただく。問題提起にすぎないものもあれば,強引なアジテーションもあって,話が一貫していないのは承知の上。何かがご記憶に残れば幸いである。