今回の「記者の眼」には宣伝文が含まれている。以下を読まれる方は,この点をご了解いただきたい。

 「運用に代わる,いい言葉はないでしょうか」。先日,ある会合で話をしたところ,来場者の方からこのような質問を受け,答に詰まった。話のテーマは,企業の基幹系システムの危機についてであった。おおよそ,次のようなことを話した。

●既存の基幹系システムは肥大し,かつ老朽化している。といって全面再構築することは費用面からも,体制面からも難しい。やむをえず,既存システムをだましだまし運用しているのが多くの企業の実態である。

●このため,システム運用部門に相当な負荷がかかっている。これまではなんとか頑張ってきたが,それも限界に来ている。というのは,開発部門に比べ,運用部門にはなかなか日が当たらず,予算と要員を減らされる一方だからだ。

●本稼働させた後で,業務の変化に合わせてアプリケーション・プログラムを修整していくシステム保守の仕事も,運用と同様に裏方である。保守は,開発部門が引き続き受け持つ場合もあるし,開発部門とは別の部門が担当することもある。どちらにしても,保守の仕事も,なかなか評価されない。

●そもそも,企画や開発というと前向きな感じを与える。これに対し,保守とか運用は,言葉自体が地味な後ろ向きの仕事という誤解を与えやすい。

 冒頭の質問をした来場者は,企業のシステム運用部門を預かっており,「運用の重要性を経営陣や利用部門,そして運用部門自身に認知させるために,なにか新しい言葉を記者さんのほうで作ってくれませんか」という。

 そのときはうまく答えられず,「宿題にしてほしい」と言って逃げてしまった。その後,いろいろと考えた結果,「戦略保守/運用」などという表現をひねり出した。困るとすぐ戦略という言葉を付けるのは安易かもしれない。

 以前,「記者の眼」欄で読者の方々とやりとりする中で,「Noと言えるインテグレータ」という表現が生まれたことがあった。今回のテーマについても,いい言葉を思いついた方,ご存知の方は,ぜひ書き込んでいただきたい。

改めて保守/運用の重要性を考える

 戦略という言葉を持ち出したのは,「保守/運用を戦略的に実施していきましょう」ということだ。情報システム担当者にとっては,システムの開発が終わり,サービスインしてからが本番である。システムを安定稼働させることはもちろん,稼働後の経営の変化に応じ,システムを柔軟に変化させていくことができて初めて,情報システム担当者は企業経営に貢献できる。

 そして,的確に保守/運用していった結果,そのシステムの課題や改善点が次々に見えてくる。改善点を整理すると,新システムの企画が生まれ,新規開発につながる。つまり,保守/運用は「上流工程」で,企画/開発が「下流工程」とすら言える。

 これほど重要な業務にもかかわらず,経営者の中には,「保守/運用業務は戦略性に乏しい仕事だから,アウトソーシングすれば安くなる」といった誤解をしている向きがある。企画業務でコンサルティング会社に,開発業務で大手インテグレータに,それぞれ結構な対価を支払うのに,保守/運用になるととたんに渋くなる。いや,渋くなったのではなく,企画/開発で用意したお金を使い切ってしまったのかもしれない。

 一方,インターネットを使う基幹系システムが登場したこともあって,保守/運用は一段と難しくなってきている。また,自力のシステム開発をあきらめ,アプリケーション・パッケージを導入したとしても,保守/運用業務はつきまとう。パッケージ・ベンダーの説明を聞くと,「リアルタイムのデータ連携,グローバルかつマルチサイトの運用」といった言葉が出てくる。しかし,謳い文句通りに運用することはもの凄く大変である。

 パッケージの保守を考えると,さらに頭が痛い。導入時にカスタマイズをやりすぎてしまうと,バージョン・アップができない。といって,自力で追加プログラムを作ったり,業務の変化に応じてパラメータを再設定することも容易ではない。

まずグランド・デザインを描こう

 こうした保守/運用の問題は今に始まったことではない。「当たり前のことをなぜ今ごろ,言っているのか」と思われる方も多いだろう。しかし,保守/運用問題で困っている顧客もまた多いのである。

 保守/運用を戦略化する第一歩は,経営陣をはじめとする関係者の意識改革である。実はこれが一番難しい。筆者としては今後は,なんとか経営者や利用部門向けに,こうした情報を発信していきたいと考えている。

 次に,情報システムのマネジメントに関するグランド・デザインを描く必要がある。どのような体制で,どのようなやり方で,システムを企画/開発/保守/運用していくのか,仕事全体を見直すのである。

 例えば,運用しやすいアプリケーションにするために,開発段階から運用担当者が参画することを義務づける。運用部門で次の開発につながるテーマを整理し,開発部門に受け渡す。開発基盤に加え,運用基盤を整理し,一元的なシステム運用ができるようにする。

 いずれも,開発部門や運用部門を横断して取り組む課題である。すなわち,システム保守/運用の戦略化とは,情報システム部門の業務改革でもある。

 こうした問題意識から,「事例で探るシステム保守/運用の戦略化」というテーマのセミナーを実施することにした。主催は,筆者の古巣である日経コンピュータである。保守/運用の改革に関心がある方はぜひ,本セミナーに参加していただきたい。

(谷島 宣之=コンピュータ第一局編集委員)