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記者の眼

iTunesになぜなれない? 顧客志向が必要な日本の音楽配信

本間純 2004/08/18 ITpro

 米アップルの「iTunes Music Store(iTMS)」が登場して以来,一時はすっかり冷え切っていた音楽配信ビジネスが息を吹き返したように見える。7月には,iTMSでのダウンロード件数が1億曲に達した(関連記事)。ソニーが欧米で展開する「Connect」(関連記事),米ロキシオの「Napster 2.0」(関連記事)など,対抗サービスも花盛りだ。

 しかし,日本では5年も前に,レコード会社を主体とした本格的な音楽配信サービスが始まっていたことを,皆さんは覚えているだろうか。

 1999年12月,ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)は音楽配信サービス「bitmusic」を開始した。1曲350円とやや高価で,曲の種類もシングルA面44曲のみと少なかったが,大手レコード会社が佐野元春などのメジャー・アーティストの楽曲を手に,自らサービスを展開したことは当時としては画期的だった(注1)。その後,エイベックスなどのライバルも続々と参入し,音楽配信ビジネスは活況を呈するかに見えた。

注1:それまでにも「music.co.jp」といった独立系の音楽配信サービスは存在したものの,配信する曲はインディーズ系のものに留まっていた。世界の5大レコード会社でさえ,まだ商用化には踏み切れなかったころの話だ。

 そして現在――。価格は1曲200円前後へと下がり,曲データの数も約6万曲まで増えた。しかし,残念ながら,国内で音楽配信ビジネスが順調に立ち上がっているとは言いがたい。アップルのiTMSにあって,国内のサービスに欠けているもの。それは,業界のしがらみや内向きの理屈にとらわれず,顧客のニーズを最優先することだと筆者は考える。

 これまで国内の音楽配信では,レコード会社ごとに音楽配信サイトが分断され,ユーザーが好きなアーティストの曲を探し回る必要があった。曲をダウンロードしてもCD-Rにコピーできず,メモリーカードへの転送制限もある。街のレコード店に行けば,さまざまな楽曲が扱いやすいCDのパッケージで手に入るのに,これでは顧客がわざわざ音楽配信を選ぶ気にならないのも当然だ。

 iTMSの成功は,iPodという魅力的なデバイス,iTunesという便利なソフトなくして語れない。米国と日本では音楽業界の状況も異なり,単純に両者を比較するのは酷だろう。しかし,音楽配信サイトの分断,厳しすぎる著作権保護といった日本特有の問題が,“失われた5年間”の一因になったことも否定できない。以下,この2つの問題について考えてみることにする。

メーカーの意向に縛られ大同団結ならず

 ここで,音楽配信サイトの分断を象徴する失敗事例を紹介しよう。レコード会社が親会社の電機メーカーの思惑に振り回された結果,ユーザーが望む,ワンストップ・ショッピングの実現が大幅に遅れたと考えられるからだ。

 約1年前,東芝と東芝EMIが運営する音楽配信サイト「du-ub.com(ドゥーブ・ドットコム)」がひっそりと幕を閉じた。2001年2月に,テレビCMを打つなど鳴り物入りで始めたサイトだった。東芝が90%出資する,同名の子会社が運営した。

 du-ub.comには,当時,宇多田ヒカル,椎名林檎のヒットで勢いに乗っていた東芝EMIが楽曲を提供し,1曲350円で配信した。同年8月には大幅にサイトをリニューアルするなど,地道な改善でアクセス向上に務めたが,売り上げにつなげることはできなかった。結局,2003年8月にサイト閉鎖に追い込まれた。

 失敗の原因の一つは,初期投資を抑えるために,過去の楽曲データを配信せず,新曲のみを順次追加する方針を取ったこと。当初用意したのは6曲,2年半後の閉鎖時でも曲数は800程度に過ぎず,SMEのサイトなどと比べても大幅に見劣りした。ただし,より本質的な原因は,同サイトの成り立ちにかかわるものだ。

 du-ub.com設立の10カ月前に当たる2000年4月,SME,エイベックス,BMGファンハウスなど12社のレコード会社が,ソニーコミュニケーションネットワーク(So-net)を母体として,新会社のレーベルゲートを設立した。東芝はこの動きを事前に聞き付け,子会社の東芝EMIを巻き込んで,独自の音楽配信子会社(後のdu-ub.com)設立に動いた。東芝は,レーベルゲートの設立を,ソニーによる音楽コンテンツ囲い込みと見たのである(注2)

注2:レーベルゲートは当初,各レコード会社が自社サイトで手がける音楽配信の負担を軽減するため,音楽データの加工や圧縮,配信サーバーの運用などを手掛けていた。自らの音楽配信サイトを立ち上げ楽曲の販売を開始したのは,昨年10月である。音楽業界関係者の情報を総合すると,東芝側は当初からレーベルゲート自身が販売まで手がけると誤解したようだ。事実を知ったころには,du-ub.comの設立準備に取りかかっており,後には引けない状態だった。

 こうして,東芝EMIのレーベルゲートへの参加は見送られることになった。音楽業界は,大同団結して顧客にワンストップ・ショッピングを提供する機会を逸したわけだ。東芝EMI ニューメディアグループの山崎浩司副部長は「du-ub.comの運営は想像以上に厳しかった。今後は,他社の音楽配信サイトに対しても,できる限りの楽曲データを提供していく」と話す。

 東芝EMIは今年4月から,レーベルゲートの音楽配信サイト「Mora(モーラ)」に参加した。1つのサイトでほとんどの曲を提供する(注3)。これだけのことを実現するのに,国内のレコード業界はレーベルゲートの設立から数えて4年間を費やした。ようやく,アップルのiTMS並みのサービスの実現に一歩近づいたわけだ(注4)

注3:Moraは,メジャー・レーベルの楽曲の9割以上を網羅している。ただし,ジャニーズ・エンタテイメントを含む一部のレーベルは音楽配信に楽曲を提供していない。

注4:米国では,レコード会社が自ら手がけた「Pressplay」などの音楽配信サービスが失敗した(関連記事)。レコード会社が音楽コンテンツの囲い込みを諦めたことで,アップルは昨年4月にiTMSを開始する際,豊富な楽曲の提供を受けることができた。

CCCDと著作権保護の扱いに苦慮

 アップルのiTMSに較べて厳しすぎる著作権保護についても,顧客の目線で解決していくことが求められる。

 過去に苦い経験をした国内のレコード会社は,かつてのように,自社サイトでの楽曲配信にこだわっていない。あるレコード会社の担当者は「アップルがiTMSを日本国内で開始するなら,喜んで楽曲を提供したい」とさえ話す。問題は,現在のiTMSで可能なCD-Rへの書き込みをどうするかだ。
 
 iTMSでは,購入した楽曲データを通常の音楽CD形式でCD-Rに書き込める。ミニコンポやカー・オーディオで再生するのも簡単。ラベルや歌詞カードを別とすれば,レコード店でCDを購入するのと変わりない。ユーザーには便利な機能だが,国内のレコード会社は,この機能がある限りiTMSへの楽曲提供は難しいとする。

 レコード会社がCD-Rの便利さを認めつつも,iTMSのやり方に簡単に賛同できないのは,それがCCCD(コピーコントロールCD)の導入を進めてきた彼らの立場と矛盾するからだ。「パソコンへの楽曲コピーを禁止したCCCDを店頭で売っておきながら,音楽配信ではCD-Rからコピー制限のない音楽CDを作れる状況を作れば,小売店が黙っていない」(前出の担当者)。

 さらに国内の音楽配信は,楽曲データのコピーや移動を厳格に管理する「チェックイン/チェックアウト」機能を使うことが多い。ユーザーの使い勝手を損なうからと,アップルがあっさり捨てた機能をいまだに使い続けているあたりからも,供給者の論理が依然根強いことを示している。

 筆者は著作権不要論者でもなければ,CCCD反対派でもない。国内レコード会社の,レンタルCDやファイル交換サービスに対する懸念は十分理解できるし,著作権を巡る交渉事の大変さや,これまでの関係者の努力を理解しているつもりだ。外から見るほど,問題の解決が簡単でないことも知っている。著作権保護と利便性の両立を技術的に試みる取り組みも評価したい(注5)

注5:Moraでは,著作権保護に対応した独自形式「ATRAC CD」を使い,音楽データを圧縮した状態でCD-Rに記録できる。ソニーなど一部のオーディオ機器で再生可能。

 しかし,ここまで見てきたように,レコード会社が主体となった国内の音楽配信は,今まであまりにも親会社の利益や既存の流通チャネルの都合に振り回されて,顧客の顔を見ずにきた。今後も音楽配信サービスの魅力を削ぐことが続くならば,決してこの新しいビジネスが軌道に乗ることはないだろう。

 音楽ソフトの売り上げは昨年度で対前年比10%減,5年連続の減少となった。そろそろ,不法コピーへの対抗策といった消極的態度でなく,新しい販売チャネルとして音楽配信を本気で育成する時期ではないだろうか。

(本間 純=日経コンピュータ)

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