この記事は,「IP電話2003年の展望(前編) 春には商用サービスが本格化,固定費と接続性がネックに」と題した記事(以下,本編と呼ぶ)の補足説明編である。

 本編に記したように,2003年春から,IP電話の商用サービスが本格化する。この補足説明編では,(1)公開されている各社のサービスの料金,(2)IP電話以外の既存の電話とのコストを比較するために筆者が行った試算,(3)各IP電話サービスの相互接続に関する各社の対応状況,などをまとめた。

(1)今春から始まる商用サービスの料金は?

 2003年1月現在,ソフトバンク・グループを除く各社は,試験サービスを無料で行っている。国内の加入電話への発信も無料にしているところが多い。このような出血大サービスは,いつまでも続けてはいられない。IP電話サービスを新たな収益の柱とするためにも,有料化は欠かせない。

 本編にも記したように,KDDIの「KDDI-IP電話サービス」,BIGLOBEの「FUSION IP-Phone for BIGLOBE」は料金を明らかにしているが,他のサービスはまだこれから。その料金設定に各社は頭を悩ましているはずである。決めなくてはならない料金は4項目――初期費用,月額基本料,機器レンタル料,通話料である。いずれの項目も,先行するBBフォンをにらんで定めざるを得ない。


 FUSION IP-Phone for BIGLOBEは2003年1月31日で試験サービスを終え,翌2月1日から本サービスを開始する予定である。

 初期費用はKDDI-IP電話サービスが月額1000円としているものの,BBフォンが無料としている以上,各社とも無料かあるいは非常に低額にせざるを得ないだろう。

 ダイヤルアップによるインターネット接続サービスの初期費用はユーザー獲得競争の結果,ほとんど無料になったという経緯がある。IP電話の場合は,IP電話用の機器をユーザーに配布しなくてはならないので,宅配便の送料数百円が発生する。この費用は,新規ADSLユーザーの場合はどのみち接続機器を送らなくてはいけないので,追加でかぶさることはない。このようなことから,IP電話のための初期費用は無料に近い金額にすることは無理な話ではないはずだ。

 問題となるのが,ユーザーにとってはIP電話を使っても,使わなくても契約した以上は毎月徴収される固定費(月額基本料および機器レンタル料)である。BBフォンは単独で利用すると月額390円の基本料がかかるが,Yahoo! BBと併用するなら無料である。機器レンタル料金はBBフォンを使わない時と同じ690円(8Mサービス時)もしくは890円(12Mサービス時)である。

 KDDI-IP電話サービスでは基本料は390円で,機器レンタル料として追加で190円(レギュラーコース1.5M/8M時)もしくは290円(フレッツ・ADSLコース,Bフレッツ・コース,光ファイバ・マンション・コース時)がかかる。つまり,固定費としては追加で580円もしくは680円を支払わないとIP電話は利用できない。

 FUSION IP-Phone for BIGLOBEの場合も,同様である。月額基本料は380円で,機器レンタル料は700円となる。ADSLモデムの代わりとなる機器で,そのレンタル料500円がいらなくなるので差し引き200円のプラスになる。基本料と合わせて580円のIP電話の固定費が新たに発生する。

 ここまでが固定費で,変動する通話料は利用時間に応じて発生する。通話料はIP電話サービス提供会社だけでは決まらずに,NTTなどの電話会社との交渉によって接続料金が決まり,それをベースにした金額となる。国内の加入電話向けの3分当たりの料金は,BBフォンが7.5円,FUSION IP-Phone for BIGLOBEが8円,KDDI-IP電話サービスが8.5円となっている。他のサービスも同様の8円前後の料金となるだろう。つまりIP電話を使えば,市内通話並みの料金で,全国に通話ができるようになる。

(2)既存電話との価格差を試算してみると

 このように通話料金は長距離電話ほどメリットあるものの,BBフォンを除いては固定費(月額基本料および機器レンタル料)が必要となりそうだ。まずKDDI-IP電話サービスならびにFUSION IP-Phone for BIGLOBEの場合で,月額580円かかるとして,どの程度の通話時間で元が取れるのか試算してみよう。

 最初に市内通話の範囲でしか一般加入電話を使っていない場合。市内通話料金は3分8.5円(昼間,夜間)になっているので,ほとんど両サービスを使うメリットはない。

 県外30kmから60kmまでの市外通話料金はNTTコミュニケーションズで3分40円(昼間)である。これだと月々56分以上使っていると元が取れる。通話料金にして2200円程度である。最遠の100km以上の場合は3分80円である。これだと25分以上使えば580円の元は回収できる。通話料金で見ると1940円程度が損益分岐点になる。どちらにしても,通話料割引サービスを用いていると,損益分岐点はもっと上がってしまう。

 一方,全国一律20円のフュージョン・コミュニケーションズを使っている場合は,約2時間半以上,通話料金にして約3000円以上電話を使っていないと,元が取れない。
 いずれにせよ,長距離電話を月々2,3000円以上使っているユーザーでないと,KDDI-IP電話サービス,FUSION IP-Phone for BIGLOBEの料金体系ではメリットが出ないことになる。

固定費が月額300円程度なら,メリットを感じるユーザーが増える

 もっとも両サービスの水準が今後のスタンダードになるとは限らない。固定費(基本料金+機器レンタル料)580円は年にすると6960円となり,長距離電話を頻繁に使っている人でないと,ちょっと敷居が高い。ユーザーが,この料金水準でIP電話に飛びついてくるかは疑問である。一方で無料のサービスが存在しているからである。

 例えば,おおよそ半額の月額300円だとして,これまでの市外通話料金と比較してみよう。すると,県外30km~60kmでは30分/1200円以上使っていれば,IP電話に乗り換えるメリットが出てくる。100km以上であれば,13分/1000円というのが損益分岐点である。

 月額300円というのは,携帯電話のコンテンツ料金の高い方で,親指の勢いで,300円程度のコンテンツなら買っている人も多いはずだ。年額にすると3600円だから,BBフォンのように無料にならなくても,このくらいなら,まあ,IP電話に払ってもいいかなと思う人は,それなりのボリュームがいるのではないだろうか。

 これから料金を決める大多数のサービス事業者には,無料とは言わないが,ぜひとも300円程度に収めていただきたいものである。その方が,ユーザー数は増え,長期的には事業者のメリットにもなるはずだ。

(3)サービス間の相互接続は難しい

 今春から始まる商用サービスをめぐって,料金設定と並んで大きな課題が,サービス間の相互接続である。

 本編にも記したように,ここには2つの問題がある。1つはグループ化が進む一方で,グループ間の相互接続が進まない点。もう1つは1番目の問題に起因して,同じISPのユーザー間でもサービスが異なると無料通話ができない点である。

 まず,前者についてはIP電話の事業構造を説明する必要があるだろう。ADSLを用いてIP電話サービスにかかわる事業者は5つの階層をなしている。回線事業者,ADSL回線事業者,IP電話機器提供会社,IP電話サービス提供会社,ISPである。

 回線,ADSL回線については,ご存じのように,NTT地域会社が提供する銅線上で,アッカ・ネットワークス,イー・アクセス,NTT地域会社,ソフトバンク・グループなどがADSL回線を提供している。IP電話機器は,ADSL回線事業者が提供する場合とIP電話サービス提供会社が提供する場合がある。

 そして,IP電話の基盤ネットワークを構築して,IP電話サービスを提供するのが,IP電話サービス提供会社である。ISPはこれらの提供会社からサービスを購入して,エンド・ユーザーに提供する。

 BBフォンの場合は,回線を除いた上位4階層をソフトバンク・グループで一括して提供しているが,他のサービスの場合は,階層ごとに違う会社が提供している。サービスによっては,階層の区切りが違って,話をややこしくしている。

 IP電話の中核となるサービスを提供する企業は,NTT-ME,NTTコミュニケーションズ,KDDI,東京通信ネットワーク,ソフトバンク・グループ,日本テレコム,フュージョン・コミュニケーションズなどである。NTT-ME,ソフトバンク・グループを除いて,いずれもこれまで電話サービスを手がけてきた電話会社である。つまり,マイライン戦争を繰り広げてきたライバルたちなのだ。

 同じIP電話サービス提供会社を使っているISPの間では,無料通話ができるように準備が進めており,相互接続実験も始まる(関連記事)。それだけではなく,KDDIと日本テレコム,東京通信ネットワークはサービスを相互接続することを明らかにしている(関連記事)。それ以外では,他のグループ/提供会社と接続する動きは具体的には明らかになっていない。

同じISP内でも通話できない場合も

 もう1つの話しをややこしくしている点は,ISPとIP電話サービス提供会社の関係が1対Nどころか,M対Nになっている点である。あるISPは複数のIP電話サービス提供会社と組んでIP電話サービスを提供し,IP電話サービス提供会社も複数のISPに対してサービスを提供しようとしているのである。

 端的な例はNECの「BIGLOBE」である。フュージョン・コミュニケーションズ,KDDI,NTTコミュニケーションズを使ったIP電話サービスを提供することを明らかにしている。2002年12月24日には,フレッツ・ADSLユーザー向けにNTT地域会社が提供するIP電話機器を使ったサービスを提供することも明らかにしている。サービス提供会社がどこになるかはまだ明らかになっていない。いずれにせよBIGLOBEでは,4社以上のIP電話サービスが使えることになる。


 もっとも,すべてのBIGLOBEユーザーに4社の選択肢が提供されているわけではない。利用しているADSL回線によって,使えるIP電話サービスが限られてくる。

 1つのISPが複数のADSL回線事業者でADSLによる接続サービスを提供することは,大手ISPでは良くあることで,ISPが複数のIP電話サービスを提供しても別に驚くには当たらない。しかし,問題となるのは,少なくとも本サービスが始まるこの春の時点では,それぞれのサービス間で通話ができないという点である。

 以前からある,パソコンを使ったソフト・ベースのIP電話であれば,システムが違うと相互接続はできないとしても納得はいく。ところが,今,問題のIP電話は03や050といった電話番号を持ち,普通の電話機を用いて利用する電話サービスなのである。パソコンを使えない人でも,普通の電話と変わりなく使えるサービスなのに,相手によっては通話できないというのは,ちょっと納得がいかない人は多いはずだ。

 1つのISPが複数のIP電話サービスを提供するとしても,ADSL回線事業者ごとに,きれいにIP電話サービス提供会社が分かれてくれれば,まだ理解しやすかった。ところがADSL回線をまたいでサービスを提供したり,同じISPの同じADSL回線事業者の回線であっても速度(8M/12Mbps)によってIP電話サービスが異なったりと,複雑極まりない。

 典型的な例が,自らIP電話サービスを提供するKDDIのインターネット接続サービス「DION」である。DIONユーザー同士であっても,異なるIP電話サービスを使っていると通話ができないのだ。メガコンソーシアムによる4社連合のIP電話サービス(2002年11月15日発表)と,イー・アクセスがIP電話機器提供会社となる12社連合によるIP電話サービス(同27日発表)は別サービスで,本サービスが始まる段階になっても相互通話できないというのだ。

 この2つは利用できるADSL回線が異なっている。イー・アクセスのADSL回線を利用していても,8M回線の場合は4社連合,12M回線の場合は12社連合のサービスとなり,当面同じDIONユーザーであっても,無料通話はおろか,通話すらできないのである。IP電話の基盤ネットワークはどちらもKDDIが提供するにもかかわらずである。

 このように異なるISPを使っていても,同じグループのIP電話サービスを使っていれば通話,しかも無料通話,ができるが,そうでない場合は通話すらできない。本編で述べたように,長期的には,みんなつながるにしても,同じISPのユーザー同士くらいは早期に無料通話ができるようにしていただきたいものである。

(和田 英一=IT Pro副編集長)