NEC,KDDI,日本テレコム,松下電器産業の4社は昨日(4月22日),ブロードバンド・サービス/コンテンツを共同で提供するために「(仮称)メガコンソーシアム」を設立すると発表した。

 4社はそれぞれBIGLOBE,DION,ODN,Panasonic hi-hoというインターネット接続サービスを提供している。コンソーシアムは参加企業共通のサービス,コンテンツを単独で提供するよりも低コストで提供して,顧客満足度を高めるとともに収益源を確保することを狙っている。

 コンソーシアムは共通サービス,コンテンツを提供するためのポータル・サイトを開設する。サイト名,URLなどはまだ決まっていない。コンソーシアム参加プロバイダのユーザーは,プロバイダのサービスやコンテンツを利用するのと同じように,ポータル・サイトのサービス,コンテンツを利用できる。

 具体的なサービスとしては,携帯電話との連携を含めた電子メール,IP電話,インターネット・メッセンジャなどのコミュニケーション・サービスがあがっている。実際のサービスは,今年秋ごろからテスト版を提供し,2003年春ごろに有償化する見込み。また,動画などのブロードバンド・コンテンツをコンテンツ提供者から集め,配信する。

 コンソーシアムの設立は5月下旬の予定。参加企業は4社に限らず,他のインターネット接続事業者にも広く呼びかけているという。コンソーシアムに加わりそうなプロバイダはある。Panasonic hi-hoは2002年3月11日,他の電機系メーカー3社とインターネット事業全般において包括的な提携を結ぶと発表している(詳細記事)。

 その3社とは「SANNET」を提供する三洋電機ソフトウエア,「infoPepperインターネットサービス」の東芝情報システム,「DTI」を提供する三菱電機系のドリーム・トレイン・インターネットであるが,今回の発表ではコンソーシアムには参加していない。コンソーシアムと家電4社連合の関係については「将来,いくつか共通点が出てくるだろう」(松下電器産業のeネット事業本部インターネット事業推進室室長兼ISPカンパニー社長の木村純氏)と述べ,今後の参加を匂わせている。

接続サービスだけではもうからない

 4社がコンソーシアム設立に踏み切った背景には,インターネット接続サービスだけでは収益を上げられなくなっていることが挙げられる,Yahoo!がADSL接続サービスに参入したことにより,この1年で一挙に低価格化が進んだ。プロバイダにとっては,単に自社サービスを使ってインターネット接続するだけのユーザーはこれ以上増えても,おいしい話ではなくなっている。

 そこで追加料金が取れるサービス,コンテンツを増やして,収益率を改善したいというのがプロバイダの胸の内だ。NECソリューションズの芳山憲治執行役員常務は,「有料のコンテンツを見てくれる人が多くなれば,総会員数の増減を気にしなくなる時がくるかもしれない」とまで言っている(掲載記事)。

 ところがサービス,コンテンツどちらの面でもプロバイダ1社で事業を進めるには限界を感じていた。サービスの面では,各社が一つのサービスを別々の方式で提供していても,ユーザーには魅力的ではなく,急成長が見込めない。開発費もそれぞれかかってしまう。

 IP電話を例に取ると分かりやすいだろう。IP電話サービスは月額基本料金を取るものの,同じサービスのユーザー間では通話料は無料だ。プロバイダが違えば,基本料金に加えて通話料が必要となり,かなりのヘビー・ユーザーでなければコスト・メリットを得られない。より多くのネット・ユーザーを潜在的ユーザーとして押さえることが,IP電話の普及には欠かせない。

 自社のユーザーを奪われかねない強力サービスも登場した。ソフトバンク・グループはYahoo! BB以外のユーザーにもIP電話サービス「BBフォン」を提供することを4月19日に発表したのだ(詳細記事)。

 たとえばODNのユーザーであってもBBフォンを使える。このため,「Yahoo! BBの友達がBBフォンを使いだしたから,ODNの私もBBフォンを使おう」と考えるユーザーが増える可能性がある。自社のIP電話サービスが立ち上がる前に,BBフォンにユーザーが流れ,将来の収益チャンスを逃してしまうことも十分に考えられるわけだ。

 そこで,コンソーシアムで共通のIP電話サービスを合計977万会員(注1)を対象に提供すれば,サービスの利用者が増えるだろうという考えである。各社がサービス開発に重複投資する無駄も避けられる。

注1:各社の会員数は,2002年2月現在で,NEC(BIGLOBE)が405万人,KDDI(DION)が215万人,日本テレコム(ODN)が190万人,松下電器産業(Panasonic hi-ho)が167万人。

 こういった構想であるものの,具体的なことはまだ決まっていないようだ。BIGLOBEは一般電話にもかけられる有料の「dialpad」とパソコン間専用で無料の「BitArena」という二つのサービスを提供している。また,ODNでは「ODNメッセンジャー」と呼ぶ音声によるチャット・サービスを提供している。KDDIもIP電話の研究は進めており,昨年末は発表近くまで行ったものの,現在でもまだ発表していない。

 今回のコンソーシアムでは,いずれかの既存のサービスを他社も使うことにするのか,新たな方式を共通サービスにするのかはまだ決まっていない。

 携帯対応電子メールやインターネット・メッセンジャといった他のサービスでも同様に幅広い潜在ユーザーを対象にすることによって,サービス利用者を増やし,収益源にすることを目論む。

 コンソーシアムが提供する共通サービスとして,IP電話やメールといったコミュニケーション・サービスがまず取り上げられているのが象徴的だ。これらのサービスはIP電話を例にとって説明したように,同じサービスのユーザーがどんどん増えていく可能性があるからだ。コミュニケーション・サービスの増殖力は,写メールでauを抜いて業界2位に躍り出たJフォンの事例を思い出してみればお分かりいただけるだろう(関連記事)。

977万ユーザーを背にコンテンツを共同購入

 一方,動画などのコンテンツについては,コンテンツを集める機能と集めたコンテンツを配信する機能を共通化することでコンソーシアムを結成するメリットを狙う。コンテンツ集積の点では,一種の共同購入によって,購入単価を下げることが狙える。また,既存の番組をインターネット配信する際には著作権処理が煩雑となり,コストアップの元となるが,これを一括処理することによって,コストを下げる。

 一部報道であった「ハリウッド映画の共同購入」は芳山執行役員常務は否定した。それよりも「インターネットの中でしか見られないものをクリエイトしていきたい」と同氏はコンテンツ作成にも意欲を見せる。

 こうして集めたコンテンツをデータ・センターから配信する。ただし,コンソーシアム自体で,新たにCDN(コンテンツ・デリバリ・ネットワーク)を構築することは考えていないようだ。「他のCDNを用いることになるだろう」(NECソリューションズの滝沢三郎執行役員)

最大の脅威はYahoo!か

 コンソーシアムの設立は5月下旬を予定している。参加企業は4社に限らず,他の大手や地域,CATVといったインターネット接続事業者にも広く呼びかけているという。

 NTTグループはOCNやぷららといったグループ内のプロバイダを統合する計画を明らかにした(詳細記事)。芳山執行役員常務は「NTTグループの企業からも『参加を検討中である』という回答をもらっている」と述べ,“対NTT”という見方を退けようとしている。

 また,「コンソーシアム設立が具体的に動き出したのは『ソニーが@niftyを買収か』という報道の後」(芳山執行役員常務)と認めるが,“対So-net+@nifty”という見方も否定する。

 実は,コンソーシアムにとって最大の脅威はYahoo!だったのではないか,と筆者は見ている。その理由を,前半と同じくサービスとコンテンツの面から考えてみよう。

 サービス面では,プロバイダによらずIP電話やメッセンジャを提供しているYahoo!は,プロバイダがこれらのコミュニケーション・サービスを有料化しようとする際に最大のライバルとなりえる。コミュニケーション・サービスを使いたい人たちの間でプロバイダが違っても,Yahoo!のサービスを使えば,プロバイダを乗り換えなくても済む。プロバイダ独自のサービスは無視され,せっかくの収益源にユーザーが付かないことになってしまう。

 コンテンツの面では,ブロードバンドのユーザー数がものを言う。今回の4社ともADSLユーザーの数は非公開としている。しかし,4社以外にも100万ユーザーを超えるプロバイダは何社もあるが,こと高速インターネット接続サービスの中では,Yahoo! BBよりも多いユーザーを抱えているプロバイダはないと見られる。

 ADSLに限ってみれば,Yahoo! BBは3割に近いシェアを持っている。他のプロバイダはNTT東日本,西日本,アッカ・ネットワーク,イー・アクセスといったADSL通信事業者を使いながら,シェアを分け合っていると見られる。

 ブロードバンド・コンテンツを提供する側にしてみれば,まずはより多くのユーザーを抱えているところからコンテンツを提供したい,と考えるだろう。他のプロバイダよりもユーザー数の多いYahoo! BBから,というのは自然なことだ。そこで,他のプロバイダはコンソーシアムに結集し,ユーザー数を増やしてYahoo! BBの脅威に対抗したかったのではないか。

 今回の発表を受け,@niftyやSo-net,NTTグループの事業者などがどのように動くのか注目される。商用インターネット接続サービスが始まってから,プロバイダの栄枯盛衰があったが,いよいよ最終章の幕開けとなったのかもしれない。

(和田 英一=IT Pro編集)