日本語版Webブラウザの新たな選択肢が登場した。「Opera」日本語版である。Internet Explorer(IE)のセキュリティ・ホールに閉口しているユーザーや,Netscapeが遅いと感じているユーザーにとって朗報といえよう。

Opera 6.01日本語版
写真●Opera 6.01日本語版
 もちろん,OperaよりもIEやNetscapeといった既存ブラウザの機能や使い勝手を好むユーザーも多いだろう。Operaユーザーとなった筆者も,Operaが一番優れていると言うつもりはない。ただ,既存ブラウザに見劣りしないことは確かだ(関連記事)。

 現在のブラウザ市場では,選択肢が増えること自体が重要なのである。選択肢が増えることで,セキュリティ上の問題を回避できたり,Webサイト製作者にW3C(The World Wide Web Consortium:WWWに関連する技術の標準化を進めている非営利団体)標準の重要性を知らしめたりできるのだ。

やっと登場したOpera日本語版

 日本語版の登場で,国内メディアに最近取り上げられるようになったOperaだが,その歴史は古い。開発元のノルウェーOpera Softwareは1995年に設立された。最初のOperaブラウザは96年にリリースされ,現在ではバージョン6.01になった。

 筆者がOperaを知ったのは,1998年末のこと。当時の二大ブラウザだったIE 5.0とNetscape Communicator 4.5の記事を書くために取材している際に知った。当時のバージョンは3.50で,ダウンロード時のプログラム・サイズは1.15Mバイトと,フロッピ・ディスクに収まるほどであった(現在は,Sun MicrosystemsのJava VMを含まないタイプで,3Mバイト程度)。

 実際に試したところ,Operaのキャッチ・フレーズ「The Fastest Browser On Earth」通り,非常に軽快だったことを覚えている。CSS(Cascading Style Sheets)などにも対応しており,とても魅力的だった。

 しかし,致命的な弱点があった。日本語ページを表示できなかったのだ。Opera Softwareにメールで問い合わせたところ,「日本語版は現在開発中」との回答をもらった。また,30日間有効の試用版は用意していたものの有償だった(1ライセンス当たり35ドル)。マイクロソフトによって無償が当然とされたブラウザに対して,お金を支払うことにユーザーは抵抗があるだろう。

 その後,しばらくは注目していたものの,日本語に対応する様子がまったくなかったので,すっかり追うことを止めていた。何度か「次バージョンでは日本語対応するらしい」との噂を聞いて色めきたったものの,実際にリリースされることはなかった。

 だが,状況は変わった。2000年12月にリリースされたOpera 5.0からは,広告が表示される無償版が用意された。そして,2001年11月に日本語を表示できるOpera 6.0が登場した。2002年2月には,メニューなどのインタフェースがすべて日本語化されたバージョン6.01ベータ版が登場した。ようやく日本語版の登場である。3月下旬には日本語版の正式版がリリースされ,国内代理店であるトランスウエアからは日本語サポートを受けられる。

 98年末の取材のとき,マイクロソフトと日本ネットスケープ・コミュニケーションズに,「『Opera』というブラウザがあるのだが,競争相手になり得るか」との質問をぶつけたところ,「あり得ない」との回答を得た。しかし,いまやOperaはIEやNetscapeと同じ土俵で戦える存在となったのだ。

セキュリティ上の問題を回避

 Opera日本語版の登場で,現在使用しているブラウザにセキュリティ・ホールが見つかった場合,乗り換える際の選択肢が増えた。

 いまさらではあるが,IEのセキュリティ・ホールに閉口しているユーザーは多い。「IEに深刻なセキュリティ・ホール」というタイトルの記事がこれだけ続けば,読者はもちろん,記者のほうでも麻痺してしまいそうである。

 確かに,Netscape Communicator 4.7xやNetscape 6.xは有力な選択肢ではある。IT Proが1月に実施したアンケートでも,およそ2割の回答者がNetscapeブラウザを使用しており,選択理由のトップが「セキュリティ上の問題が少ないから」だった(関連記事)。

 しかし,IE以外にはNetscapeしかないというのは,あまりにも選択肢が少なすぎる。アンケートでは,「IEが危険なことは分かっている。しかし,自分の環境ではNetscapeは重くて使いづらい。選択肢がないためにやむを得ずIE使っている」といった回答が複数寄せられた。

 特に企業ユーザーは,セキュリティの理由からOperaに注目しているようだ。2月25日に開催された,トランスウエアとOpera Softwareの説明会には,導入を考える企業関係者などが100名ほど詰め掛けた。ある企業の社員は「全社でIEを使用しているが,さすがにリプレースしようと考えている」と語った。

 同社では,パッチが公開されるたびに,システム部が各クライアントに適用して回るという。「システム部の負荷が大きすぎる。リプレースは手間なのでできればしたくはないが,IEのセキュリティ・ホールは次から次へと出てくる。ちょうど困っているところに,Operaの日本語版が公開されたので,リプレースする気になった」。

 一時的に乗り換えるだけだとしても,選択肢は多いに超したことはない。ほとんどの場合,パッチの適用や設定変更で,セキュリティ・ホールを回避できる。しかし,最近IEには,パッチが未公開かつ,単純な設定変更では回避できないセキュリティ・ホールが見つかっている(関連記事)。

サイト作りがW3C標準に近づく

 IT Proで実施したアンケートで寄せられたコメントとして,特定ブラウザ(主にIE)でしか閲覧できないサイトが多いことへの不満は,2番目に多かった(有効回答数3016中60件。1位は「ベンダーの提供情報に不満」で93件)。IE以外のブラウザが増えることで,現状を打開できるかもしれない。

 Operaを含め,メジャーなブラウザはW3Cが標準化した推奨仕様(Recommendation)をサポートしている。そのため,W3C標準仕様でサイトを作成すれば,どのブラウザでもきちんと表示される“はず”である。しかし,IEでしか見栄えをチェックしていないサイトは非常に多い。IEが圧倒的シェアを占めているためである。

 IEの独自機能を使っているサイトだけではなく,仕様(文法)違反しているために,他のブラウザでは適切に表示されないサイトも多い。これは,IEの文法チェックが“甘い”ためである。IEで閲覧する限りでは,きちんと表示されてしまう。ベンダーのポリシーがあってそのようにしているのだから,「IEの文法チェックを厳しくしろ」とは言えないが,サイト製作者は仕様に従うべきだ。

 IEユーザーが圧倒的多数を占めるうちは,いくらこのような正論を言ったところで説得力はない。しかし,IE以外のユーザーが増えれば,状況は変わるだろう。きちんと閲覧できないユーザー(ブラウザ)の割合が増えていけば,サイト製作者も作り方を変えざるを得ない。

期待は高いOpera,ただし懸念材料も

 ただし,Opera日本語版はまだまだ登場したばかり。選択肢の一つとして地位を獲得するまでの道のりは決して短くない。最も気になることは,日本語による情報提供である。有償版を購入したユーザーは,電子メールによるサポートをトランスウエアから受けられるが,無償版ユーザーにも,有償版ユーザーと同等ではないにしても日本語情報を提供してほしい。

 トランスウエアおよびOpera Softwareは,積極的に情報を提供していくというが,トランスウエアのサイトで提供予定のFAQは現在準備中である。正式版が登場する3月下旬までには用意されるのであろうが,既にベータ版を使い始めているユーザーは多い。Opera SoftwareのBusiness Developer for Asia 冨田龍起氏によれば,ベータ版の公開から2週間で20万本が既にダウンロードされている。一刻も早い同社の情報提供を期待したい。

 現状では,Opera Japanese Users Group(OJUG)のサイトや,個人ユーザーが公開している情報が頼りである。OJUGは有志により結成されたOperaのユーザー会で,Opera用の自作ツールやFAQなどを公開している。掲示板やメーリング・リストなども運営しているので,Operaを使い始めたもののトラブルに見舞われたユーザーは,Operaを投げ出す前に同サイトをのぞいてほしい。

 また,セキュリティ情報の公開も気になるところである。IEに比較すれば数は少ないものの,いくつかセキュリティ・ホールは見つかっている。今後ユーザー数が増加すれば,それに従って見つかる数が増える可能性は十分にある。

 セキュリティ・ホールが見つかることはある程度仕方がない。問題は,迅速な情報や対応策(パッチや修正版の公開)の提供である。「セキュリティ・ホールが見つかれば修正したアップグレード版を迅速に提供する。これまでもそうだったし,これからもそうする。情報については,日本語でもきちんと公開していく」(Opera SoftwareのCEO Jon S.von Tetzchner氏)。この言葉が正しいことを,ぜひ証明してもらいたい。

選択肢は多ければ多いほどよい

 取材に応じてくれたOJUGの一人は次のように語ってくれた。

 「Operaが気に入っているということもあるが,それよりも国内のブラウザ市場での選択肢を増やしたいという思いがあった。Opera以外でも有望なブラウザが登場すれば,それについてもぜひ応援したい。選択肢は多ければ多いほどよい」

 筆者も同じ思いだ。そのため,近々公開される「Mozilla 1.0」にも期待している。一つでも多くの選択肢が増え,健全な競争が技術革新を生み,その恩恵をユーザーが受けられることを願ってやまない。それがあるべき姿ではないだろうか。

(勝村 幸博=IT Pro)