牧内勝哉氏
 「電子政府と電子自治体は,2005年中に総見直しを行う。Linuxが社会インフラとして電子政府に導入されるチャンス。ただし,採用されるかどうかはLinux自身の成熟度にかかっている」――経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室長 牧内勝哉氏は6月1日,LinuxWorld Expo/Tokyo 2005の基調講演で「電子政府構築計画とLinux」と題しこう語った。

 牧内氏は,電子政府担当の官房企画官を兼務している。講演では,電子政府の視点からのLinuxについて話した。

 経済産業省は産業政策としてオープンソースの振興を推し進めている。そのため「電子政府など公共的なシステムは,オープンソース技術を積極的に活用し,市場を牽引すべきではないかという意見がある」(牧内氏)。しかし,国民にレベルの高い行政サービスを提供するためには,機能やコストの面で最適な技術を選択しなければならない。産業政策と情報システムのユーザーとしての立場は相反する面もある。

 このせめぎあいについて,牧内氏は「公開競争入札という調達システム化では,その時点での最適な技術が最低の価格で導入される。オープンソースとLinuxの技術および製品が成熟レベルに達しているのであれば自然に導入事例が増えるだろう。それが答えだ」と,電子政府へのLinux導入は,Linux自体の成熟度にかかっていると指摘した。

 次に牧内氏は自由民主党のe-Japan特命委員会から政府に対する申し入れを紹介した。これまで,政府のe-Japan計画は,「CIO連絡会議」や「レガシー・システム見直し」など特命委員会の申し入れに添う形で実現されてきている。2002年8月には,「質の高い電子政府システムの構築に向け,オープンソース・ソフトウエアの活用も勘案しながら,信頼性の高いソフトウェアの開発を推進すること。また,セキュリティ対策強化の重要性を考慮し,オープンソースのオペレーティング・システムの開発・導入を推進すること」という電子政府についての申し入れが行われた。

 2005年には独立行政法人に関して「システムの調達にあたっては,原則競争入札とするとともに,これまでのシステム調達の枠組みにとらわれることなく,ハードウエアとソフトウエアの分離調達,オープンソース・ソフトウェアの活用などについて検討すること」という申し入れが行われる見込みだ。すなわち,3年前には「開発を推進すること」であった申し入れは「オープンソースの活用」へと進み「党の意識は開発から導入へと進展してきている」(牧内氏)

 牧内氏は行政サービスの電子化やブロードバンドの普及など「e-Japan計画は大きな成功をおさめた」とする。アクセンチュアの電子政府世界ランキングでは2003年の17位から,2005年には5位へと浮上した。その上で「電子政府と電子自治体は,2005年中に総見直しを行う。その手法としては,CIO補佐官やEA(Enterprise Architectute)などオープンな技術とプロセスを採用する。実用システム調達でのオープンソース・ソフトウエアに対する理解は進んでおり,今後進展していくだろう」との見方を示した。

 2005年5月時点で,人事給与システムや会計手続システム,特許出願システムなど21の府省共通業務システムと56の個別府省業務システムについて,11件の最適化計画と25件の見直し方針が策定されている(関連記事)。「見直しはLinuxが電子政府に導入されるチャンス。ただし,採用されるかどうかはLinuxの成熟度にかかっている」(牧内氏)。

 中央省庁の全職員を対象とする人事給与システムについては,2003年7月にLinuxで構築するという報道があったが,人事院は「まだ決まったわけではない」としている(関連記事)。このシステムについて牧内氏は「現実問題としてLinux上でこのシステムの構築が進んでいる」と話した。

 最近の展開としては,e-Japan政策パッケージとして,2005年度中に政府調達へのオープンソース導入の基本的な考え方を策定する予定という(関連記事)。また経済産業省で十数台のLinuxデスクトップを行政事務で試用する(関連記事)などの取り組みを紹介した。

(高橋 信頼=IT Pro)