2016年1月に始まるマイナンバー制度の実運用に向けて、企業・組織の対応はどれだけ進んでいるか。どの部門が対応するのか。情報システムへの影響はどうか。誰に相談するのか――。企業・組織から1000件強の回答を集めた大規模な調査を通じて、日本企業におけるマイナンバー対応の状況を4回にわたって浮き彫りにする。最終回となる今回は、マイナンバー対応を必要とする情報システムについてみていく。

 マイナンバー制度対応として、企業・組織はどのような情報システムを必要とするのか――。「企業・組織におけるマイナンバー対応に関する実態調査」(調査概要は記事の末尾を参照)では、13項目の選択肢を挙げて、マイナンバー対応作業の実施・実施予定・実施想定層618件に当てはまる情報システムをいくつでも回答してもらった。

 マイナンバーの実施・実施予定・実施想定層が、対応する必要があると考えている情報システムの筆頭は「人事・給与システムの改変」で71.4%、2位は「会計・経理システムの改変」で41.4%、3位は「マイナンバー保管システムの導入」で28.3%である(図1)。4~8位の5項目はいずれも2割台前半でほぼ同じ水準にある。

図1●マイナンバー制度に対応するために、改変・導入を要する情報システムの種類(n=618)
図1●マイナンバー制度に対応するために、改変・導入を要する情報システムの種類(n=618)
マイナンバー対応の実施・実施予定・実施想定者ベース
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 調査した13項目は、「人事・給与」「会計・経理」などの「業務システムの改変」と、「保管」「収集」などの「マイナンバー用システムの導入」、それ以外の3つに大別できる。「業務システムの改変」に関する5項目を合わせると74.6%になり、「人事・給与システムの改変」がその大半を占めている。

マイナンバー用に収集、保管、権限管理、書類出力、ログ照会

 これに対して、「マイナンバー用システム導入」に関する6項目を合わせると43.5%になる。この中で最も高い「マイナンバー保管システムの導入」(28.3%)をはじめ、2割台前半に「マイナンバー収集システムの導入」、「マイナンバーにアクセスする権限を管理するシステムの改変・導入」、「マイナンバーを記載する法定書類の出力システムの導入」「マイナンバーにアクセスした記録(ログ)を照会するシステムの導入」の4項目がある。マイナンバー用システムは、特筆して高いものがない代わりに、多様な情報システムが幅広く想定されていると言える。

 「業務システム」と「マイナンバー用システム」の分類に入らないのが「セキュリティシステムの改変」(17.2%)である。「マイナンバーを組織として故意に漏えいしたり盗用したりした場合に、企業にも厳しい罰則がある」が、このことの認知度は、マイナンバーの実施・実施予定・実施想定層でも47.6%にとどまる。「セキュリティシステムの改変」に関する必要性の認識が2割弱にとどまっているのは、マイナンバーを取り扱うシステムのセキュリティの必要性について十分に認知されていないことも背景にある。

業務システムを改変する必要性は情報システム部門が強く認識

 マイナンバー対応で必要となる情報システムについて、回答率が10%以上の上位10項目と小計を、業種、従業員数、所属部門の属性別に集計すると、いくつかの特徴が浮かび上がる(図2)。

図2●「マイナンバー制度に対応するために、改変・導入を要する情報システム」の属性別の傾向
図2●「マイナンバー制度に対応するために、改変・導入を要する情報システム」の属性別の傾向
マイナンバー対応の実施・実施予定・実施想定者ベース。回答率が10%以上の上位10項目と小計を表示
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 まず図2の右端にある小計に着目すると、「業務システムの改変」は、「情報システム部門」(84.7%)で高く、「政府/官公庁/団体」(57.9%)や「従業員数が1~99人の小規模な法人」(51.7%)で低い。また「マイナンバー用システムの導入」は、「従業員数1000人~4999人、および5000人以上の大規模な法人」(それぞれ55.4%、50.4%)で高く、小規模な法人(27.5%)で低い。小規模な法人は調査時点で、マイナンバー制度が情報システムに与える影響を十分に理解していなかった可能性がある。

 「業務システムの改変」は、総務・法務・経理・人事部門といった業務を担う部門で、必要性を認識する層が多くても不思議ではないが、この調査では情報システム部門での認識がより高い結果となった。業務部門は現在使用している情報システムがマイナンバーとどのように関連するのか、調査時点では具体的にイメージできていなかったのかもしれない。これに対して、情報システム部門は、マイナンバーを既存の業務システムに対応させる際に、既存システムの改変を必要とすることをイメージしやすかったと考えられる。一方、「マイナンバー用システムの導入」は、4つの部門ともに41.9~45.1%の3ポイント程度の範囲内にあり、部門による差が小さい。

 システム改変・導入の必要性に関して、個別の選択肢に分解して見ると、総じて、小規模な法人で低く、大規模な法人で高い傾向がある。「人事・給与システムの改変」は情報システム部門で83.3%と特に高いのが目立つ。業種別では、政府/官公庁/団体が独特の特徴をもつ。すなわち、他の業種と比べ、「マイナンバー専用データベースシステムの導入」や「マイナンバーにアクセスした記録(ログ)を照会するシステムの導入」が高く、「人事・給与システムの改変」が低い。

【マイナンバー実態調査2015】(1)小規模な企業・組織で目立つ対応作業の遅れ
【マイナンバー実態調査2015】(2)主役は情報システム部門より総務・人事部門
【マイナンバー実態調査2015】(3)相談相手は士業や取引先ITベンダー

 「企業・組織におけるマイナンバー対応に関する実態調査」は、日経BPコンサルティングの調査モニターを対象として、Webアンケート調査で実施した。対象者は、企業の経営系部門、情報システム部門、総務・経理・人事部門などマイナンバー対応の取り組みが想定される部門の所属者であり、有効回収数は1058件。

 調査期間は2015年3月25日~3月28日。調査は日経BP社日経コンピュータ編集部と日経BPコンサルティングが企画を、日経BPコンサルティングが実査・集計と報告書作成を担当した。同調査に関する報告書は、日経BPコンサルティングが販売中。報告書の抄録版(無償)は2015年6月30日までダウンロード可能