2016年1月に始まるマイナンバー制度の実運用に向けて、企業・組織の対応はどれだけ進んでいるか。どの部門が対応するのか。情報システムへの影響はどうか。誰に相談するのか――。企業・組織から1000件強の回答を集めた大規模な調査を通じて、日本企業におけるマイナンバー対応の状況を4回にわたって浮き彫りにする。第3回となる今回は、マイナンバー対応の相談相手、および対応が遅れると想定される事態をみていく。

 マイナンバー制度対応で、企業・組織は誰に相談するのか――。「企業・組織におけるマイナンバー対応に関する実態調査」(調査概要は記事の末尾を参照)では、7項目の選択肢を挙げて、マイナンバー対応作業の実施・実施予定・実施想定層618件に、外部の相談相手をいくつでも回答してもらった。

 マイナンバー対応の相談相手の筆頭は「士業(税理士、公認会計士、社会保険労務士、中小企業診断士など)」の41.6%で、他を引き離している(図1)。従業員1~99人の小規模な法人では、士業は58.4%とさらに高い。マイナンバー対応の関連サービスを提供するITベンダーは、こうした税理士などの士業の専門家と連携することで、対応を進めたい企業等に食い込むアプローチを検討する余地がありそうだ。

図1●マイナンバー制度対応で企業・組織が外部で相談する相手(n=618)
図1●マイナンバー制度対応で企業・組織が外部で相談する相手(n=618)
マイナンバー対応の実施・実施予定・実施想定者ベース
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 相談相手の2位は「取引している/付き合いのあるITベンダー」で29.4%であり、3位は「所属する企業・組織の業界団体」の28.2%である。4位は「取引している/付き合いのあるコンサルタント」で16.0%である。ここで注目されるのは、「マイナンバー対応を支援する(取引/付き合いのない)別のITベンダーや別のコンサルタント」は、相談相手として、それぞれ6.6%、7.9%とあまり人気がないことである。企業などが相談相手として念頭に置くのは、まずは既存の取引先であるITベンダーやコンサルタントなのだろう。

相談相手のITベンダーの上位は富士通など大手SIer

 実際、マイナンバー対応の相談相手となるITベンダーの上位には、「情報システムの構築・コンサルティングの委託先(業務パッケージやERPの提供先を含む)」の上位にある、富士通(関連会社を含む)、日立製作所(同)、NEC(同)や、NTTデータなどが並んでいる。この2つの指標の首位は、富士通で、委託先としては14.7%、相談相手としては8.3%の支持がある。大塚商会やオービックはERPベンダーという面もあるが、「マイナンバー対応に積極的に取り組んでいる」という指標でも、マイナンバー対応の相談相手でも上位に食い込んでいる。

 一方、「マイナンバー対応に積極的に取り組んでいる」という指標で、「委託先」の比率を上回るベンダーとしては、オービック、オービックビジネスコンサルタント(OBC)など多くのERPベンダーが目立つ。ERPはマイナンバーに対応する必要性が高く、またERPベンダーは総じてマイナンバー対応を促進するマーケティング活動を展開していることが、こうした認識の背景にあると考えられる。

 ERPベンダー以外では、野村総合研究所が「積極的に取り組んでいる」指標が、「委託先」の比率を上回る。同社はマイナンバー制度の調査・研究に早くから取り組んでおり、SIerとしてだけでなく、シンクタンクとして露出する機会が他のITベンダーより多いことも、背景にありそうだ。

情報システムの改変の遅れを金融業や大規模な法人が想定

 2015年末時点で、マイナンバー対応が遅れた場合に想定される事態を、マイナンバーの実施・実施予定・実施想定層に複数回答で尋ねたところ、全10項目のうち、「社内規定・マニュアルが対応していない」が42.9%、次いで「従業員の教育・啓発が不十分である」が40.9%で、この2項目が4割台と高かった(図2)。

図2●2015年末時点で対応が遅れると想定される事態(n=618)
図2●2015年末時点で対応が遅れると想定される事態(n=618)
マイナンバー対応の実施・実施予定・実施想定者ベース
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 これに続くのが「情報システムの改変が完了していない」(35.8%)と「関連する帳票(法定の調書など)とその要対応箇所を特定できていない」(30.1%)の2項目。前者の「情報システムの改変が完了していない」は、金融業(41.7%)、および従業員数1000~4999人、5000人以上の大規模な法人(それぞれ43.8%、45.3%)で高い。これらは調査時点で対応作業の実施率が高い属性であるが、早めに着手したとしても、情報システムの改変は複雑、困難であるとの認識が表われているようだ。逆に、従業員1~99人の小規模な法人は21.5%と低いが、これはマイナンバー制度対応作業の内容を正確に把握できていないことが影響している可能性がある。

 2015年3月時点で対応作業の実施率が低いことを踏まえると、政府や業界団体、関連事業者による働きかけが強化されず、このままのペースで進捗した場合、2015年末時点で図2で示した事態に陥る企業・団体が続出する恐れがある。

 最終回では、マイナンバー対応を必要とする情報システムについてみていく。

【マイナンバー実態調査2015】(1)小規模な企業・組織で目立つ対応作業の遅れ
【マイナンバー実態調査2015】(2)主役は情報システム部門より総務・人事部門

 「企業・組織におけるマイナンバー対応に関する実態調査」は、日経BPコンサルティングの調査モニターを対象として、Webアンケート調査で実施した。対象者は、企業の経営系部門、情報システム部門、総務・経理・人事部門などマイナンバー対応の取り組みが想定される部門の所属者であり、有効回収数は1058件。

 調査期間は2015年3月25日~3月28日。調査は日経BP社日経コンピュータ編集部と日経BPコンサルティングが企画を、日経BPコンサルティングが実査・集計と報告書作成を担当した。同調査に関する報告書は、日経BPコンサルティングが販売中。報告書の抄録版(無償)は2015年6月30日までダウンロード可能