2016年1月に始まるマイナンバー制度の実運用に向けて、企業・組織の対応はどれだけ進んでいるか。どの部門が対応するのか。情報システムへの影響はどうか。誰に相談するのか――。企業・組織から1000件強の回答を集めた大規模な調査を通じて、日本企業におけるマイナンバー対応の状況を4回にわたって浮き彫りにする。第1回となる今回は、企業・組織における対応状況を企業規模別や業種別に探った。

 マイナンバー制度への対応に向けた企業などの作業はどの程度、進んでいるのか――。日経コンピュータ編集部と日経BPコンサルティングは2015年3月、「企業・組織におけるマイナンバー対応に関する実態調査」をWebアンケートで実施し、企業・組織の所属者1058件の回答を得た。

 その結果、「マイナンバー制度への対応に向けた作業(準備作業を含む)」を「実施している」との回答(実施層)は16.8%にとどまることが分かった(図1)。「実施していないが、予定はある」は21.2%で、「実施層」と合計した「実施・実施予定層」でも38.0%にとどまった。

図1●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の実施状況(n=1058)
図1●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の実施状況(n=1058)

 これに「実施していないが、対応を要する法制度であれば今後対応するはずだ」(20.4%)まで加えた「実施・実施予定・実施想定層」は58.4%となり、ようやく過半数を超える。一方、「実施していないし、予定もない」との回答も8.4%あり、マイナンバー制度の趣旨が十分には浸透していないことを示している。2016年1月のマイナンバーの運用開始までの残り期間が限られ、企業などでの対応作業には一定の工数や費用を要することを考えれば、対応作業の遅れが懸念される。

99人以下の企業・組織の実施率は6%

 従業員数の規模別に見ると、企業・組織の規模が小さいほど、対応作業の実施率が低い(図2)。特に「1~99人」の小規模な企業・組織での実施率は6.0%と極端に低い。これに対して、「100~999人」の規模では17.7%と2割弱あり、「1000~4999人」の規模では20.9%、「5000人以上」の規模での実施層は26.6%といずれも2割を超える。実施状況が「分からない」層の構成比が「5000人以上」の規模で半数近くと多いのを考慮すれば、「5000人以上」の規模での実施率は既に5割を超えていると見ることもできる。

図2●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の従業員数別の実施状況
図2●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の従業員数別の実施状況
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 小規模な企業・組織の問題は、実施率が低いことだけではない。「実施予定層」が15.5%と少なく、「実施・実施予定層」の構成比が21.5%しかないことだ。実施率が今後、急激に伸びるとは考えずらく、先行きが憂慮される。「実施していないし、予定もない」という、マイナンバー制度への理解が不十分な層が20.1%と極端に多いのも懸念材料である。これに対して「対応を要する法制度であれば今後対応するはずだ」という実施想定層は31.1%と高いが、実施想定層が今後どのように対応するかの予想は難しく、その動きは「実施予定層」より鈍いと考えられる。

 マイナンバー制度は大企業だけではなく中小企業を含むすべての企業が対象となり、規模による特例や経過措置があるわけではない。しかも、個人番号を組織として故意に漏えいしたり盗用したりした場合に、企業にも厳しい罰則がある。

 政府や業界団体、制度対応サービスを提供する関連事業者は2015年に入り、制度の啓発や、取り組みの働きかけを強めているが、今回の調査を見る限り、小規模な企業・組織には制度の趣旨が浸透していない。

公共系と金融業、IT関連業で実施率が高い

 マイナンバー制度対応作業の実施率を業種別(7分類)に見ると、政府/官公庁/団体が28.2%で最も高く、金融業が25.4%でこれに続く。IT関連業の20.0%を含めた3業種が2割台である(図3)。

図3●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の業種別の実施状況
図3●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の業種別の実施状況
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 実施率が2割台の3業種は、従業員等のマイナンバーを収集・管理する通常業務のほかに特別な役割をもつことが、実施率が高いことの背景にあると考えられる。具体的には、行政機構は社会保障や税務、災害対策など複数の行政手続きを横断して効率化する役割がある。金融機関は顧客からマイナンバーを収集し管理する役割がある。行政や金融業は、その事業・業務内容と法規制が密接に関連していることも、マイナンバーという法制度への対応が進んでいることの背景にありそうだ。一方、IT関連業はマイナンバー制度対応に付随して、情報システム更改などを事業として行う役割がある。

 回答者の所属部門別に見ると、実施層の構成比が高い順に、「情報システム部門」の20.7%、「総務・法務・経理・人事部門」の17.2%、「経営系部門」の15.1%、「その他の部門」の8.8%であった(図4)。情報システム部門でマイナンバー制度対応の実施層が多いのは、同部門の設置が大企業に多く、マイナンバー制度対応への意識が高いことを反映していると考えられる。この裏付けとして、「実施していないし、予定もない」という、制度への理解が不十分な層が4.9%と少ないことが挙げられる。

図4●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の所属部門別の実施状況
図4●マイナンバー制度の対応作業(準備作業を含む)の所属部門別の実施状況
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 第2回では、マイナンバー対応の担当部門をみていく。

 「企業・組織におけるマイナンバー対応に関する実態調査」は、日経BPコンサルティングの調査モニターを対象として、Webアンケート調査で実施した。対象者は、企業の経営系部門、情報システム部門、総務・経理・人事部門などマイナンバー対応の取り組みが想定される部門の所属者であり、有効回収数は1058件。

 調査期間は2015年3月25日~3月28日。調査は日経BP社日経コンピュータ編集部と日経BPコンサルティングが企画を、日経BPコンサルティングが実査・集計と報告書作成を担当した。同調査に関する報告書は、日経BPコンサルティングが販売中。報告書の抄録版(無償)は2015年6月30日までダウンロード可能