基調講演に登壇した富士フイルムソフトウエアの佐藤力氏は、同社が提供するB2B向けクラウド型ファイル共有サービス「IMAGE WORKS」の基盤を“近代化”した経緯について説明した。オンプレミスのデータセンターからパブリッククラウドのPaaS基盤へと移行。Azure上でサーバーレスアーキテクチャやNoSQLデータベースなどを活用している。

富士フイルムソフトウエア サービス本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチーム チーム長 佐藤力 氏
富士フイルムソフトウエア サービス本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチーム チーム長 佐藤力 氏
撮影:平瀬 拓

 IMAGE WORKSの提供は、2006年4月にオンプレミスのデータセンターで開始した。JavaアプリケーションサーバーとMVCフレームワークのStrutsを用いたWebシステムで、データベースはPostgreSQLを使っていた。開発は中国へのオフショアを活用。これを10年運用してきたが、大きく4つの課題を抱えていた。開発や運用保守の負荷の低減、処理性能の向上、拡張性の確保、稼働率の向上、である。

 ビジネス上求められるスピード感とのギャップがあったことから、2015年にモダナイゼーション(近代化)の検討を開始。IT企業からの提案などを検討したうえで2016年2月、データは既存システム上に置きつつ、アプリケーションをフルPaaS化することを決めた。開発期間はPoC(概念検証)と製品化で6カ月。2016年11月に予定通りリリースした。

 IaaS(仮想サーバー)ベースではなくフルPaaS型のシステムを採用した最大の理由は、サーバーの拡張性や容量設計といった非機能要件をまったく気にしなくて済むこと。リソースは、負荷に応じて自動的に拡張される。稼働率は100%で、サービスが止まらない。運用が不要で、サーバーの存在すら気にする必要がない。

最終データを手元に置きつつPaaSを全面採用

 PaaSで構築した新生IMAGE WORKSのアーキテクチャを佐藤氏は「直列型ハイブリッドクラウド」と表現する。最終データを手元に置きつつ、クラウドの良い部分を組み合わせた形態である。既存システムのワークロードをクラウドにオフロードし、既存のデータ(PostgreSQL)を非同期でクラウド(Cosmos DB)にキャッシュする。

 特徴は、IaaSのような仮想マシン(VM)を一切使っていないこと。このため、ミドルウエアやOSを保守する必要がない。「NoVM(仮想マシンなし)はNoOps(運用なし)への最短距離」と佐藤氏は狙いを語る。高可用性も低コストで実現した。米国リージョンと日本リージョンでDR(災害時復旧)構成をとっている。

 目的に応じてデータストアも使い分けている。RDB(リレーショナルデータベース)だけでなく、適材適所で4種類6カ所のデータストアを使っている。具体的には、オブジェクトストア(Azure Blob Storage)、ドキュメントDB(Azure Cosmos DB)、RDB(Azure SQL Database)、Azure Searchである。

 最後に同氏は、PaaS化を実現するにあたって苦労した点を挙げた。開発方法をウォーターフォール型からアジャイル型へと変えたことや、RDBとCosmos DBのマッピングと同期、Azure Searchとの同期、などである。拡張性に関するAzureの設定画面も難解で苦労したという。

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