「飯室さん、これから2年間、スウェーデン本社で仕事してもらうことになったから」――。社長室に呼ばれて、いきなりそう言われた。
2006年の1月6日、日本のマーケティング責任者だった私は、スウェーデンのウプサラ市にあるGEヘルスケア・ライフサイエンス本社でのアジアパシフィック(日本、韓国、中国、インド、東南アジア、オーストラリア、ニュージーランド)のマーケティング責任者としての辞令を受けた。
「なぜ、アジアのマーケティング責任者が、日本でもアジアでもなく、北欧に赴任しなくてはいけないのか」と不思議に思ったものだ。アジアにいなくていいのか?と。
ブラックボックス・アジア
どうやら、マーケティングに限らず日本をはじめとするアジアは、欧米から見ると「ブラックボックス」だったようだ。せいぜい売り上げの数字くらいしかハッキリと判るものがなく、いったいどんな市場で何が起きていて、これからどうなるのか、そしていったい私たちが何をしているのかが全く分からないというのだ。
確かにつたない英語ではあるけれど、毎月レポートは上げているし、嘘を書いたつもりもない。中長期戦略も年間活動計画もちゃんとプレゼンをして、質疑応答の末に承認を受けてから進めてきた。これまで本社に黙って勝手に何かを進めたことなどはなかった(と言い切る自信もないが、本社をだましたことはなかったはずだ)。
欧米の時間に合わせて夜中にビデオ会議でしっかりとコミュニケーションも取っていたつもりの我々からすると、ずいぶんと失礼な話と感じたものだ。
その「アジアはブラックボックス」の意味が「言葉が通じる・通じない」という単純なものではないと気づいたのは、ずいぶん後になってからだ。
辞令から半年が経過してもまだ、スウェーデンのワーキングビザが発行されなかった。そのため、私は本社のマーケティングの所属でありながら、日本からアジア全体を統括することになった。
私はそれまで20年以上もずっと外資系に勤めてきた。しかし、決して英語が堪能だと胸を張れるほどでもない。慌ててビジネス英会話を習いに行ったりしていたので、実際の赴任までの時間が稼げたことには安堵していた。